研究課題/領域番号 |
16J06356
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
北村 友宏 神戸大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 鉄道事業 / 密度の経済性 / サービスの質 / 計量モデル |
研究実績の概要 |
鉄道事業においては、総費用の中で輸送量に関係なく発生する施設・車両維持費等の固定費用が大きな割合を占めており、路線網(ネットワーク)の大きさを変えずに輸送量を増加させたとき単位当たり平均費用が減少する性質(密度の経済性)が存在するとされている。密度の経済性は、固定費用に対する輸送量の多さを反映するという意味で、固定費用要因である施設・設備等の有効利用の程度を表すと考えられる。 この固定費用が、特に日本の地方部の中小鉄道事業者においては経営圧迫の一要因となっているため、施設・設備等の有効利用が課題である。その有効利用の水準を反映する密度の経済性に大きく寄与する要因が分かれば、経営環境の厳しい地方部の鉄道事業者の存廃問題改善策の提言に有益となる。 そこで、地方部の鉄道事業者の密度の経済性に影響を与える要因を把握するため、2005年度から2013年度までの事業者レベルのマイクロデータを用いた実証研究を行った。まず、日本の地方部の中小鉄道事業者の費用決定式を推定した。その際に、費用要因として平均線路本数、車両種類数等といった輸送サービスの特徴(質)の事業者間差異を明示的に式に含めることでより精緻な費用決定式の推定を試みたところ、本研究のデータに対して当てはまりの良好な計量モデルが推定された。次に、費用決定式の推定結果から密度の経済性指標を計算すると、分析対象の全ての事業者・年度において密度の経済性が存在することが示された。また、保有する施設・設備の多さ、特に本研究でサービスの質とした列車すれ違い設備や複線区間の多さが密度の経済性を強めていることが明らかになった。したがって、日本の地方部には線路設備を有効に利用できていない、すなわち輸送量に対して線路設備を過剰に保有(固定費用増大・経営圧迫要因)している中小鉄道事業者が存在する可能性が示唆され、この点に意義および重要性があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず1点目として、鉄道事業者の費用決定式の推定に予想以上の時間がかかり、当初予定していた「1年目の研究成果についての論文の執筆」が実行できなかったからである。式の推定に時間を要した理由は、推定を試みた際に最初は費用決定式の満たすべき性質(動力価格や職員賃金といった投入物価格が上昇すれば費用も上昇する性質、輸送量が増加すれば費用が上昇する性質等)を満たさない推定値が何度も導出され、そのたびに分析対象の事業者グループや用いる変数を変更し、式の性質を満たす推定値を得るまで推定を繰り返したためである。 続いて2点目は、入手したデータの性質上、当初予定していた「日本の地方部の中小鉄道事業者で近年進んでいる線路の重量化や枕木のコンクリート化等の線路改良によって、鉄道事業者の人件費・経費をどれだけ削減できるか」の分析において意味のある結果を得ることができず、その分析結果を論文に反映させないこととしたからである。入手・整理した2005年度から2013年度までの8年間のデータによる分析からは、線路改良による費用への影響は検出されなかった。その理由を調べたところ、線路改良によって費用削減効果が現れるには約20年かかることが判明した(会計検査院の資料を発見し、それを参照した)。よって、より長期間のデータを入手・整理する必要が生じ、それを実行すると研究進捗が大幅に遅れる可能性があることから、実行を見送った。
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今後の研究の推進方策 |
1年目の研究(日本の地方部の鉄道事業者の密度の経済性に影響を与える要因の分析)で得られた成果について論文を執筆する。この研究成果については学会・ワークショップ・研究会・セミナー等で機会をとらえて報告し、その際に得られたコメントをもとに分析手法の改善・修正等に努める。 それと並行し、次の課題として、「密度の経済性および効率性」と「生産性上昇率」の関係について分析する。効率性とは実際の費用と最小化費用の差であり、生産性とは所与の動力・職員等(投入物)の量に対する輸送量の多さである。1年目には「研究実績の概要」で述べた通り、サービスの特徴・質(特に線路本数)と密度の経済性との関係性を示したので、2年目の分析により、こうしたサービスの質が(密度の経済性の変化を通じて)、また事業者の効率性が、それぞれ生産性上昇率にどの程度の影響を与えているかを定量的に把握することが可能となる。この分析結果も上記の論文に反映させるか、あるいは新たな論文としてまとめる。 なお、当初の研究計画では、輸送サービスの特徴の他に需要要因(営業エリアの人口密度や代替交通手段の普及状況等)を計量モデルに組み込んで分析する予定であった。しかしながら、1年目に需要要因を組み込んだ分析を試みたところ、それを組み込まない場合と大きく変わらない分析結果となった。そのため、需要要因の組み込みは不要であると考え、今後の研究では需要要因の考慮は行わないこととする。
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