研究課題
癌化した大腸上皮組織では腺管構造の破綻によりいくつかの特徴的な病理学的構造異型を示し,現在の腫瘍診断学はこうした組織学的異常を拠り所にしている.一方で,癌悪性度の本質は種々の遺伝子変異の獲得に起因する制御不能な増殖や,浸潤・転移能の獲得といった機能的な変化である.このような遺伝学的変化を基盤とする癌細胞固有の性質と,組織形態を元にした分類との相関には未だ科学的根拠が得られておらず,癌悪性化と組織レベルでの構造変化を結びつけた統合的理解が求められている.しかし,従来の研究ツールである大腸癌細胞株ではその構造異型を再現することは困難であり,また,実験動物を用いた腺管構造異型の分子機構解析も報告がない.そこで本研究では,消化器幹細胞の新規培養法であるオルガノイド培養技術により大腸癌の構造異型を再現し,構造異型の原因とその病態悪性度との相関を明らかにすることを目的として,研究を遂行してきた.昨年度までに,構造異型に関わる候補遺伝子の1つであるFBXW7の遺伝子改変を行い,続く免疫不全マウスへの移植により体内・体外での構造異型の再現,肝臓への転移能の亢進を確認した.また,マイクロアレイ解析によりFBXW7変異を有する癌ではYAP/TAZシグナルが優位に活性化していることを明らかにした.今年度は,FBXW7遺伝子変異により構造異型を獲得した癌細胞に対してYAP遺伝子・TAZ遺伝子のノックダウンおよびリン酸化部位欠損型のYAP遺伝子の過剰発現実験を行い,細胞形態や生存への影響および腫瘍生着,肝転移能の変化を検証した.その結果,YAP/TAZシグナルの不活性化により癌の構造異型が低減され,正常上皮や腺腫に見られる単一・単管腔の形態に戻るとともに,肝臓への転移が抑えられる事が明らかとなった.
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
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Cell
巻: 174(4) ページ: 856-869
10.1016/j.cell.2018.07.027.