研究課題
本研究では、100症例を目安とした患者血球細胞由来iPS細胞樹立・分化誘導・疾患解析・薬効評価を一連の流れで可能とする多検体解析モデルを構築することで、遺伝様式の明らかな疾患だけでなく孤発性疾患解析をも可能とするiPS細胞病態解析系・薬効評価系を確立し孤発性疾患治療を実現化することを目的とする。自身のこれまでの成果から、Tリンパ球・LCLを用いて100症例のiPS細胞一括樹立・神経分化誘導・病態解析・薬効評価を可能にする一連のシステムのプロトタイプはすでに確立されているといえる。また、薬効評価基盤の有用性評価として変異違い二種の家族性ALS(FUS変異型・TARDBP変異型)-iPS細胞由来モデルを用いた既存薬スクリーニングを実施し、FUS変異型とTARDBP変異型の2つの家族性ALSに対する有力な治療薬候補をそれぞれ95種、81種見出している。H28年度は、選別したALS治療薬候補を、変異違い二種の家族性ALS(FUS変異型・TARDBP変異型)-iPS細胞由来モデルを用いて二次スクリーニングを行い、臨床上有用な薬剤を選別し、最終的に選別した薬剤のALSにおける作用標的を同定している。さらには、構築したハイスループット化したiPS病態解析基盤のプロトタイプを稼働させ、多症例の孤発性ALS患者由来LCLよりiPS細胞を一括樹立し、運動ニューロンに分化誘導させ、in vitro家族性ALSモデルを基軸とした孤発性ALS表現型解析を実施している。その他にも、得られた表現型スコアと変異特異的な表現型の有無・表出程度により孤発性ALS症例の細分類を実施している。最後に、家族性ALSモデルを用いて選別したALS治療薬候補を、in vitro孤発性ALSモデルに適用させ、良好な反応性を示すかどうか、反応性を示すのはどのような特性を有する孤発性症例なのか、薬効評価を実施している。
1: 当初の計画以上に進展している
これまでに100症例近くの患者検体を一括にiPS細胞樹立し、運動ニューロンへと分化誘導させ、病態解析を実施し、薬効評価へと移行させるという一連のシステム(プロトタイプ)を独自に構築している。しかしながら当該プロトタイプが実際に多症例の孤発性ALS患者検体で高効率に機能するのか、そして、疾患発症に遺伝的因子以外の因子が関与する孤発性疾患においてiPS細胞化を介してどの程度病態検出可能なのかどうか、の二点に関しては、研究を開始する段階において未知数であった。本研究課題における最大の難所と言えるこの二点に関して、実際に研究を開始すると想定していたよりも順調に研究が進展し、当初予定していた孤発性ALSモデル構築のみならず、薬効評価を実施するまでに至っている。構築したシステム(プロトタイプ)の頑強性が研究を順調に推進させた要因であると考えられる。以上のような理由から、当研究課題を「当初の計画以上に進展している」と判断した。
本年度は、現状でiPS細胞樹立に至っていない残りの孤発性ALS症例、31症例分のiPS細胞樹立を実施し、運動ニューロンへと分化誘導させ、病態検出を図る。病態解析項目も増やす予定であり、家族性・孤発性ALSにおいて運動ニューロン細胞死にいたる要因として、過剰量のCa2+流入による興奮神経毒性が挙げられる。現在解析を実施しているin vitro ALSモデルにおいて電気生理学的解析を実施し、本研究から選別された薬剤の反応性を確認する。また、家族性ALS患者の中で最も症例数が多いのが、SOD1遺伝子に変異を有するALS症例である。このSOD1変異型ALS患者3症例分の検体を2016年9月に入手し、当研究室でiPS細胞樹立に成功している。当該iPS細胞株を活用して病態モデル構築を図ることで、孤発性ALS症例細分類における新たな基軸を設ける。最後に、孤発性ALS症例の中で家族性ALS症例特異的な表現型を色濃く表出する症例を優先してトランスクリプトーム解析にまわし、表現型解析と遺伝子発現プロファイルの関連性を見出すこと、そして孤発性・家族性ALS病態に共通する(もしくは特異的な)パスウェイ検出を図る。
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Molecular Brain
巻: 9 ページ: 88
10.1186/s13041-016-0267-6