研究課題/領域番号 |
16J06483
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 真代 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | ジャービル・イブン・ハイヤーン / アラビア科学 / 数量化 / 形相 |
研究実績の概要 |
ジャービル派『探求の書』の(1)読解、校訂作業を進める中で、そこに描かれている(2)「秤」の理論、および(3)Tilasmという概念を解明することが本研究の目的である。 (1)校訂作業を進めるに当たっては、まず夏にプリンストンで開講されたギリシア語-アラビア語伝承研究の専門家による講座を受講し、ギリシア思想を含んだアラビア語文献の読解に関する知識を深めた。そして『探求の書』を収めた写本の校訂を進め、作成した試訳を複数の方に確認していただく機会として、年度末に東京で読書会を開催した。 (2)「秤」の理論とは、対象が持つ数の釣り合いによってそのものを把握しようとするジャービルの思想である。これは対象の数量化を促す考え方であるが、その全容は未だ把握されていない。『探求の書』には、アルキメデスの重さの学やガレノスの薬学が言及されている。前者の比重秤による重さの視覚化、また後者の薬の効能すなわち質の量化という思考が、ジャービルの「秤」の理論に影響を与えていることを確認した。 (3)Tilasmというアラビア語は西欧諸語におけるtalismanの語源であるが、単に「護符」等を意味するよりは、天体の力を宿した事物、あるいはその力そのものであったことが『探求の書』の記述から窺える。ジャービルは、月下界への天体の作用を重視し、完全なるものとしての「第一形相」と、全存在物の生成を司る天球の運動、すなわち第一の運動としての「第二形相」とを独自に打ち立てた。この第二形相と個別の形相との関係についてジャービルが如何に考えていたかは、今後の調査課題である。そして天体の作用として、天体からの「付与」という概念が登場する。自然界の生成物にも、人為的に作られたTilasmにも必要とされるこの「付与」は、運動以前の作用概念として、ジャービルの宇宙論、生成論の根幹を成している可能性が見えてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「秤」の理論については、想定内の事項しか確認できなかったが、Tilasmについての調査は、ジャービル独自の形相質料論に出会う結果となり、当初の計画にはない収穫があった。これら双方の結果を合わせて、概ね順調と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
「秤」の理論に関しては、引き続きその定義を探していく。Tilasmについては、その概念の解明のために、ジャービルの形相論をより深く理解する必要がある。普遍的形相と、存在物各々の個別的形相は如何なる関係にあると考えられていたのか。ジャービルが『探求の書』の中で自身の形相質料論とは別に紹介している、アフロディシアスのアレクサンドロスの形相質料論も分析対象に掲げ、引き続き写本読解に臨む。
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