研究課題/領域番号 |
16J06558
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
吉村 竜 首都大学東京, 人文科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
|
キーワード | ブラジル / 協同組合 / 移民 / ネオリベラリズム / 世帯戦略 |
研究実績の概要 |
本研究は、ブラジルにおける中小規模の日系農家の生活戦略を事例に、農村社会でのネオリベラリズム(新自由主義的グローバル経済)の影響を明らかにするものである。その際、農家の選択プロセスに焦点をあてることにより、ネオリベラリズムに抵抗する個別の農家の日常的実践を検討する。特に、本年度の研究実績の概要として、以下の三点を挙げる。まず、サンパウロ州ピラール・ド・スール市(以下、ピラール)にて住み込み調査を実施した。また、現地調査中に、研究調査地に関する歴史資料や移民史などの文献収集をおこなった。さらに、一貫して取り組んできたこれまでの研究調査を受けて、国際学術会議での口頭発表と学術誌への論文を発表した。 まず、ピラールに住む日本人移民の所有地を滞在拠点に、同地の日系農家の経済状況や農場の経営規模、農地の環境条件に関する調査を行った。つぎに、日系農家の世帯主およびその家族を対象に、ピラールで営農するようになった経緯についてインタビュー調査を行った。その結果、1950年代に大半の日系農家は各々小規模な農地で野菜や果物をつくっていたが、やがて転住する農家から農地を買い増して大規模な農業経営(大型機械を使った穀物生産)をはじめるなど、日系農家の経営規模が多様化したプロセスを理解することができた。また、日系農家はピラールに住みはじめると同時に移民組織のメンバーに加わり協力関係を築いてきたことや、同組織の下部に「地区」を組織して結束をはかったことがわかった。 また、ポルトガル人宣教師が記した現ピラール市一帯の歴史資料や、日本人移民が組織した農協の展開に関する資料・新聞記事などを入手し、これらの資料の整理をはじめた。 さらに、ピラールでの現地調査で得たデータをもとに、個々の農家が利潤追求を志向しながらも連帯性を創造しようとする状況について口頭発表・論文執筆をした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、おおよそ研究計画に沿って研究を遂行することができたと考えている。まず、調査地ピラールにおける日系農家との信頼関係を構築し共に農業をすることにより、現地に溶け込むことに成功した。また、調査の傍らポルトガル語学習に努め、現地調査を円滑にすることができた。さらに、これまでの調査研究を論文にまとめることにより、新たな調査の焦点を明確にすることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、ピラールの日系農家に関する個別のインタビュー調査を引き続き行う。特に、果物栽培における剪定や摘果など個別の農家の技術的知見に関して、参与観察を行う予定である。また、自由市場化の影響を受けながらも日系農家が協同組合を立ち上げようとする運動、すなわち連帯経済の編成過程にも着目して調査を行う。さらに、ブラジルで急進的に広がる連帯経済(Solidaria Economia)の今日的意味を探るため、現地での文献収集を継続する必要がある。
|