研究実績の概要 |
本研究は、化学合成脂質2ccPA(2-carba cyclic phosphatidic acid)が自己免疫性および非自己免疫性脱髄病態の進行を抑制し、さらにミエリン再生の可能性を有し、多様な脱髄病態の治療薬として応用可能であることを示した(Yamamoto S. J of inflammation 2017)。 多発性硬化症(MS)は自己免疫や神経炎症など様々な要因により神経軸索を取り巻くミエリンが破壊される「脱髄」を特徴とした中枢神経系の難治性疾患である。近年、我が国での患者数は急激な増加傾向にある。現在、急性期の再発寛解期における対症療法は示されているが、再発予防や進行性MSに関する効果は認められておらず、根本的治療薬は存在しない。環状ホスファチジン酸(Cyclic phosphatidic acid: cPA)は、独特な環状リン酸構造を持つ脂質メディエーターであり、神経保護効果があることが報告されている。 我々は既にcPAの脱髄抑制効果を報告した(S. Yamamoto et al, Eur J Pharm 2014)。我々の研究グループは、cPAを治療薬として応用するために、cPAより高い生体内安定性をもつ化学合成誘導体2ccPAを開発した。本研究は、MSモデル動物に2ccPAを投与し病態解析を行い、MS新規治療薬を開発することを目的とした。MS病態は臨床において炎症性(非自己免疫性)と自己免疫性に分類され、それぞれ治療方法が異なる。2ccPAの効果を多角的に評価するために自己免疫性EAEモデル及び、非自己免疫性CPZモデルを作製し病態解析を行った。 2ccPAはオリゴデンドロサイト細胞株のアポトーシス抑制、CPZ誘導脱髄抑制効果、EAE病態スコアの抑制効果を示した。2ccPAが多発性硬化症の新規治療薬となる可能性が示された。
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