有機半導体はπ共役分子が分子間力によって弱く凝集した固体である。有機半導体中の伝導キャリアは、分子振動の影響で無機半導体よりも数十倍の頻度で散乱しているという特徴があり、電気伝導の理解には散乱の影響を考慮することが重要である。 本研究では、低周波ラマン分光を用いることで、有機半導体の低エネルギーの分子振動を直接観測することに成功した。また、外力を加えることで有機半導体の単結晶に一軸性の歪みを加えると、低エネルギーの分子振動が大きく抑制できることを確認した。以前、有機半導体の単結晶に一軸性歪みを加えると移動度が70%程度向上することを報告したが、その原因が分子振動の抑制によるものであることの裏付けとなった。 また、ドーパント分子によって高密度にキャリアドープした有機半導体において、電子スピン共鳴(ESR)の温度依存性を測定し、有機半導体においてフェルミ縮退が生じることを発見した。本研究では、今回当グループで開発した新奇のドーピング手法を用いることで、有機半導体に10の13乗毎平方センチメートル程度キャリアをドーピングした。これは、MIS構造の固体ゲートによって注入できるキャリア量の約10倍に当たる。磁化率は室温ではキュリー則に近い温度依存性を示したが低温になるにつれ、金属的なパウリ常磁性を示した。パウリ常磁性が確認されたという事実は、有機半導体において金属的な非局在キャリア状態とフェルミ面が存在するフェルミ縮退の状態にあることを意味する。また、このことからESR測定という手法が有機半導体の金属絶縁体転移の研究に有用な手法であることを示すことができた。
|