研究課題/領域番号 |
16J06593
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
川瀬 由高 首都大学東京, 人文科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | コミュニティ / 社会人類学 / 離接 / 集団/集合 / 差序格局 / 江南漢族 / 出稼ぎ移民母村 |
研究実績の概要 |
報告者は、中国江蘇省南京市郊外の農村エリア高淳をフィールドとして、若者の出稼ぎ労働の常態化が起こっている現代農村社会を、単なるコミュニティの衰退として理解するのではなく、むしろ、変化の局面のなかでも維持されている共同性のロジックに着目し、研究を進めてきた。とりわけ、村内外の社会関係が紡がれ、また途切れる具体的プロセスに着目するために、これまでの漢族農村研究における共同体論的視座および集団(group)概念による把握を相対化するとともに、「集まり」や「集合」(assemblage)の語彙を出発点とした研究視座の構築を試みてきた。これは、中国の廟会や(費孝通が差序格局の事例として言及していた)家族のありかたなどに散見される、境界線も不明瞭でありかつ規模も伸縮に富むという「渦」のような人間集合を、社会現象として正面から捉えるための新たなアプローチだと言えるだろう。 平成28年度、報告者は、上記のテーマに即した個別研究を、国際人類学民族科学連合(IUAES)や仙人の会などの学会・研究会において計6報発表するとともに、『社会人類学年報』(42号)にて、本研究の中核部分をなす論文を発表した。さらに、現地調査としては、補足資料・データの収集のほか、春節期間中の祭祀芸能についての調査を実施した。これらは、研究実施計画に沿うものである。また、博士論文に関しては、各章の民族誌記述を充実させると共に、各章を学会誌に投稿するための作業にとりくんできた。博士論文における理論的な枠組みについても既に大筋は固まり、博士論文の提出までの見通しもたった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に計画していた合計三度の現地調査は順調に実施することができ、補足データの収集、および、それに基づく研究成果の発表も概ね予定通りに行うことができたと言える。 また、これまでの研究成果を、博士論文として形にできる見通しもたっている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、従来型の共同体論では捉え難い社会現象(農作物の収穫時のよそ者との分業など)を、生活実践の即興性や柔軟性に着目し、民族誌的研究として発表してきた。今後はこの視座の汎用性をさらに高めるため、中国研究における「関係学」と近年のアフォーダンスやモノに着目する人類学的研究とを架橋するかたちでの理論的枠組みの構築を試みたい。 また、平成28年度には口頭発表を行ったものの、論文として成果発表にまで繋げることができていないトピックスがあった。今後はそれらの論点・民族誌データについても、博士論文として纏めるのみならず、学会誌にも投稿することで、研究成果をより積極的に発表していきたい。
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