研究実績の概要 |
本年度は、コラニュレンに対する1,3-双極子付加環化反応を開発した。おわん型の形状を有する分子であるコラニュレンは、面垂直方向の双極子や高いフラーレンとの会合能を有する分子であり盛んに研究がなされている。これまでにその分子構造を利用したアプリケーションを志向して、様々なコラニュレンへの修飾方法が開発されてきたが、コラニュレンのおわんの外側の炭素-炭素二重結合に対する付加環化反応の前例はなかった。この前例のない反応を達成するため、4pi電子系として炭素-窒素-炭素から構成される1,3-双極子であるアゾメチンイリドに着目した。アゾメチンイリドのフラーレンやカーボンナノチューブへの1,3-双極子付加環化反応はPrato反応と呼ばれており、曲面を有する多環芳香族分子の修飾方法として最も用いられている反応のうちのひとつである。そこで、フラーレンの部分骨格からなるコラニュレンに対しても、同様に反応が進行するのではないかと着想した。 通常のPrato反応で用いられているアゾメチンイリドや反応条件ではコラニュレンには反応しなかったが、以前の研究にて開発した多環芳香族アゾメチンイリドを用いた結果、1,3-双極子付加環化反応が良好な収率で進行することがわかった。また、この反応はおわんの凸側から外側の炭素-炭素二重結合に対して選択的に進行していることがわかった。得られたピロリジン骨格を有する付加体は引き続く酸化的な脱水素化によって、ピロールの縮環したコラニュレンに変換することができた。また、開発したコラニュレンに対する1,3-双極子付加環化反応を用いて、無置換のコラニュレンからはじめてわずか2ステップで炭素数40以上からなる深いアザバッキーボウルの合成に成功している。 以上の研究成果は、査読付き論文1報に報告している。
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