研究課題/領域番号 |
16J06656
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鷲見 貴生 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / アルゴン / TPC / 光検出 / 極低バックグラウンド |
研究実績の概要 |
本研究申請時の計画では、まずH28年度前半に30kg検出器(直径30cm、高さ30cm)を製作し、この検出器を用いたコミッショニングランを地下施設で行う予定であった。しかしH28年度に入ってから、早稲田大学キャンパス内における実験室の移動が可能となり、それまで使用していた地上8階から半地下の実験室への引っ越しをおこなった。従来の実験室では床荷重制限により、環境放射線を遮蔽するために必要なシールドを実装することが困難であったが、新実験室への移設によりそれが可能となった。 検出器の増強については、昨年度まで使用していた小型プロトタイプ検出器(直径6.4cm、高さ10cm)を縦方向のみを30cmに増強し、最小限の変更で新実験室・新テストスタンドにおける種々の再現性や安定性(液体アルゴンの充填や運用における安全管理や、質の良い信号を取得するために必要な液体アルゴン純度の評価など)の確認、さらに他実験との差別化となる高電圧印可システムの試験を複数回にわたって行い、いくつかの技術的な問題を発見・対処することができた。さらに検出器を約4トンの鉛シールドで覆うことで環境γ線を遮蔽し、地下実験において最終的な背景事象となるアルゴン39のβ線スペクトルを地上実験において観測することができた。 また、本研究独自の取り組みであるVUV MPPCの開発に関して、申請時の段階ではこれまでに開発された素子(VUV3)を検出器に実装・運用し、さらに高性能の素子が出来た場合には順次試験・実装を行う予定であった。しかし予想より早く今年度中旬に高検出効率の素子(VUV4)ができたため、こちらの性能評価を行った。その結果、従来よりも優れた性能を持つことを確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究進捗・成果は、研究課題申請時の計画とは順番があったが、総合的に見ておおむね順調だったと思われる。 まず平成28年度に入ってから実験室の学内移転が決まったため、その作業および新実験室に置ける実験環境整備および再現性の確認が必要となった。それに伴い、検出器開発に関しては当初の予定(直径30cm×高さ30cmの30kg検出器製作)ほどアクティブに進めることはできなかったが、これまで用いていた小型検出器(直径6cm×高さ10cm)を高さ方向にのみ30cmに拡張するという最小限の増強をおこない、これを新実験室で運用することで実験環境の再現性の確認した。 旧実験室では床荷重制限により環境放射線(γ線)の遮蔽のためのシールド実装が困難であったが、新実験室は建物の最下層であるため床荷重制限がなくなり、これが可能となった。そのため当初の計画では次年度に地下実験施設(神岡)で行う予定であった内部背景事象(主に39Ar)の評価を、地上実験の段階で行うことができた。 また検出器運用におけるいくつかの問題点を、本実験検出器製作前に洗いだすことができた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに地上(半地下)実験室の環境整備と再現性の確認、および環境放射線シールドの実装と内部背景事象の評価を行うことができたため、今年度は直径30cm×高さ30cmの30kg検出器の製作および性能評価を行う。 世界の他の気液2相型アルゴン検出器を持ちいた実験では、低エネルギー領域における背景事象分離能力が気液2相型キセノン検出器に劣り、低質量暗黒物質(~10GeV)に対して探索感度を持てていないのが現状である。これはアルゴンとキセノンの物性の違いによるもので、アルゴンの場合には従来のドリフト電場(~0.2kV/cm、キセノン実験と同等)よりも強い電場(>2kV/cm)を印可することで低エネルギー領域における背景事象分離能力を得られる可能性がある。これを検証・達成するためには、独自の電圧印可装置および放電対策が必要となる。 前年度までの研究で電圧印可装置の製作・運用は達成されたが、放電に関してはまだ対策が必要であるため、今年度の夏までを目途に小型プロトタイプ検出器にて放電対策および高電圧での基礎特性評価を行う。その上で物理的に要求される印可電圧を明確にしたうえで、これを実現する本検出器を製作し、年度末を目処に地上実験を行い物理感度を評価する。 また、地下施設の受け入れ準備状況によってはそこへの移設も進め、簡易的な試運転の準備も行う。
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