研究課題/領域番号 |
16J06700
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
重河 優大 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 内部転換電子分光測定 / Th-229m / コインシデンス測定 / α線分光測定 / 原子核時計 / 磁気ボトル型電子分光装置 / 阻止電場 / 半減期 |
研究実績の概要 |
Th-229m(Th-229の第一励起状態の原子核、励起エネルギー:7.8 ± 0.5 eV)が脱励起する際に生じる内部転換電子を測定することによって、Th-229mの内部転換半減期と内部転換電子の最大エネルギーを決定することを試みた。内部転換電子の最大エネルギーを決定することができれば、間接的方法によってしか測定されていないTh-229mの励起エネルギーを直接的に推定することができ、非常にインパクトのある成果となる。 私はオーストリア・ウィーン工科大学にて、U-233からTh-229mにα壊変する際に発生するα線と電子のコインシデンス測定を実施した。U-233線源をSi検出器上に作製し、α線をSi検出器、電子をMCP検出器によって測定した。α線検出時を基準として電子の検出時間の分布を測定することで、Th-229mの内部転換電子がα線の検出から遅れて検出されることを期待した。さらに、U-233線源とMCP検出器の間に阻止電圧を印可し、内部転換電子のシグナルの阻止電圧依存性を測定することで、内部転換電子のエネルギーを求められると期待した。 U-233線源について阻止電圧-0.8 Vを印可してコインシデンス測定を行ったとき、半減期7 μs程度の減衰成分が観測された。一方、U-234線源について同様に測定を行った場合は減衰成分が観測されなかった。したがって、U-233線源において観測された減衰成分は、Th-229mの内部転換電子のシグナルに対応している可能性が高いと考えられ、非常に見込みのある結果が得られた。 また、より高い検出効率とエネルギー分解能で内部転換電子の測定を行うために、磁気ボトル型電子分光装置の設計・作製に取り掛かった。今年度は図面の作製および必要な物品の発注を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Th-229mの内部転換電子に対応していると思われるシグナルを検出することができたため、順調に進展しているといえる。α線等によるノイズや電子の平均自由行程の短さなどが問題になると思われたが、適切なU-233線源を作製し適切な実験回路をくみ上げることで、非常に見込みのある結果が得られた。 また、磁気ボトル型電子分光装置の作製に向けて共同研究者と議論を重ね、物品の購入や装置の設計を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、測定精度を高めるために、実験装置や回路の改良を行い、ウィーン工科大学にて引き続き測定を行っていく。さらに、様々な阻止電圧について測定を行うことで、内部転換電子の最大エネルギーを求め、Th-229mの励起エネルギーを世界で初めて直接的に推定することができると期待している。これは、今大きな注目を浴びている原子核時計を作製するうえでも非常に重要な成果となると期待される。 さらに、より高い検出効率と分解能で電子分光測定を行うことができる磁気ボトル型電子分光装置の作製を行う予定である。この装置によって測定精度の大きな向上が見込まれる。すでに図面の作製と物品の購入を終えているため、真空チャンバーや部品の作製を工作所にすぐに依頼したい。作製後は、Zr-88線源やU-235m線源などを用いてこの装置の性能評価や改良を行っていきたい。そして、Th-229mの内部転換電子を測定することで、より高い精度でTh-229mの励起エネルギーを決定することを目指す。
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