研究課題/領域番号 |
16J06753
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
前野 清太朗 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | プレ人口減少社会 / 住居学・住宅の社会学 / 地域再生 / 農村祭祀の継承 |
研究実績の概要 |
「老いてゆくアジア」(大泉2007)の一つとして、現在の台湾はプレ人口減少社会ともいうべき段階にある。とりわけ、かつて都市へと安価な労働力を送出していた農村部では現在急速な人口流出と高齢化が進行している。本研究は人口減少のマクロな社会状況のもと再編されゆく漢人農村コミュニティ構造の変化をフィールド調査から明らかにすることが目的である。左記の目的のため本研究では家族・祭祀・地域づくりの3局面における村落からの社会変化への対応へ着目する。 平成28年度は家族・祭祀につき①2016年6月、②同年9~10月、③同年12月~翌2017年3月の計3回130日間の村落調査を実施した。 (1)家族に関しては家族集団によって共有されてきた「住まい」へ着目した。「住まい」については建築学・ハウジング論・郊外論などの角度から多く研究がなされてきたが、本研究では「住まい」を軸に村落内外へ展開する家族関係について着目した調査を行った。調査を通じ明らかとなった1970年代以降の新住居への住み替えと住み替えに際した旧住居処理の問題について分析を行った。 (2)台湾漢人の祭祀については社会人類学・宗教研究などを中心に植民地期から長い研究蓄積がある。本研究では戦後社会の人口動態(急増から急減へ)のなかで村落での祭祀がいかに変容していったかを調査した。調査を通じ調査地域の各村落に存在する廟とその祭祀が歴史的には20世紀以降、それも経済成長が進んだ戦後以降のきわめて新しい段階で成立したことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は調査村(台南市後壁区D村)において3回の現地フィールド調査を実施した。調査日程は次の①2016年6月、②同年9~10月、③同年12月~翌2017年3月の計3回130日間であった。第1回・第2回の調査を通じ、調査村インフォーマントとの良好な関係構築に成功したため、現地家屋を借用して長期調査の実施(第3回調査)が可能となった。 第1回の調査を踏まえた第2回調査ではキーインフォーマントからの情報に基づき、所有類型ごとの屋敷地サンプル6箇所を事例として選択した。続けて屋敷地の現住民・近隣他出者・一時帰省者に対して屋敷地の居住状況・管理状況および権利の分割状況について半構造化インタビューによる聞き取り作業を行った。調査により1960年代以降にコンクリート製2階建て住宅への住み替えが急速に進行したこと、それとともに過去に父系原則にのっとって構成されていた大規模家族であるほど屋敷地継承が困難となり、空家化・空地化している状況が明らかとなった。 第3回調査では第2回調査のデータ整理後不足していた権利の分割状況に関するデータの補充作業をまず行った。続けて村内5集落それぞれにある集落住民共有の廟に関するデータ収集を行った。データ収集は廟での定期祭祀に対する参与観察および住民内から選出される運営者に対する半構造化インタビューによって行われた。データ収集により廟を中心とした祭祀が成立するに足る過去のプロセスと現在の祭祀運営資金に関する各廟の財務運営状況が明らかになった。 以上の調査内容は、日本台湾学会および中国文化大学公開セミナーにおいて口頭で報告を行った。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の調査は主にD村内の共時的な集落間比較を中心に実施した。平成29年度についてはフィールド調査の範囲をD村から後壁区全域へ拡大し、D村の地域内におけるサンプルとしての位置づけを歴史的に調査する作業を行いたい。具体的には(1)「無廟」の状態から廟が集落の統合軸へと変化するに至る戦後の過程について、(2)D村では見られない強固な親族集団(宗族)の活動状況について調査を実施する。
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