研究課題/領域番号 |
16J06760
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
熊谷 翔平 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 一次元電子系 / 薄膜デバイス / 外場応答性 / 塗布プロセス |
研究実績の概要 |
本研究では,一次元電子系金属錯体の導電性と高い外場応答性とを活用した薄膜デバイスの開発とその特性の解明を目的としている。特に,一次元鎖状構造体の一軸配向薄膜を塗布により成膜する手法の開発を目的の一とする。 第一に,Ptイオンと架橋ハロゲンとから主鎖が成る一次元鎖錯体(MX錯体)の塗布結晶化を試みた。塗布手法としては,ガラス片を用いて液滴の乾燥方向を制御するエッジキャスト法を用いた。両親媒性アニオンを導入することでMX錯体を有機溶媒に溶解させ,様々な条件下でエッジキャストを試みたが,現在に至るまで目的の一軸配向膜は得られていない。MX錯体は静電相互作用や分子間力等により自己集合的に結晶化するが,この自己集合能と溶解性との良いバランスをとるのが困難であると示唆される。 第二の物質として,Ptイオンの一次元鎖構造を有するPtベンゾキノンジオキシム錯体([Pt(Hbqd)2])において,同様にエッジキャストを試みた。MX錯体とは対照的に,[Pt(Hbqd)2]は無数の針状結晶が概ね配向して基板上に成長することが明らかとなった。この結果から,MX錯体のようなイオン性の物質に比べて,[Pt(Hbqd)2]結晶のような中性分子の集合体の方がより塗布結晶化に有望であると推察できる。塗布結晶化した[Pt(Hbqd)2]において,ボトムゲート・トップコンタクト構造の薄膜電界効果トランジスタ(FET)を作製しその特性評価をしたところ,同物質で報告されているトップゲート構造の単結晶FETと同様の特性が確認された。したがって,塗布プロセスにおいても,バルク結晶と同等の塗布膜を構築できることが確認された。今後は,[Pt(Hbqd)2]をモデルとして,より幅広の結晶膜を形成しうる物質の開発を試みるとともに,フレキシブル基板上で薄膜デバイスを作製することで,その歪み応答性について調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
はじめに有力な物質として注目していたMX錯体の塗布結晶化が予想していたより困難であったため,デバイス作製に着手することができず,思うように研究を進めることができなかった。 途中から標的物質を変更することで塗布成膜を一次元電子系物質に適用する指針が立ち始め,年度後半になり基礎的なデバイス特性の評価をおこなうことができた。しかしながら,今後歪み応答性を明らかにするのには電気信号が十分に大きくないと考えており,成膜方法の改善を図るとともに,より薄膜デバイスに適した物質を開発する必要がある。これらの課題に対応しつつ研究を進めていくため,有用な成果を得るにはもう少し時間が掛かることが予想される。
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今後の研究の推進方策 |
塗布手法の改善策として,高撥水性有機膜の真空紫外光処理により表面塗れ性を制御する「親撥処理」を応用して,針状結晶を一方向にのみ成長させることを狙う。これにより薄膜デバイスの電流密度を増大させ,電気信号をより容易に検出することで,歪み応答性などの外場応答性について明らかにする。 また,[Pt(Hbqd)2]を基盤とし,その一次元鎖集積体を二次元的に配列させるため,配位子に水素結合を積極的に誘発する置換基導入を図り,新規化合物の開発を進める。単結晶育成と塗布成膜とを併せて進めることで,分子構造を改善するつもりである。適切な物質開発に成功したら,薄膜デバイスの作製へと展開し,FET特性やその歪み応答性を調べていきたい。
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