中性子星やブラックホールなどの高密度天体に見られる活動性、特にウィンドやジェットなどは、その天体が持つ強い磁場が深く関連していると考えられている。本研究の目的は、高密度天体が周囲に形成する磁気圏において起こることが期待されている電磁場のエネルギーから粒子のエネルギーへ変換、さらにその粒子が電磁波を放射するまでの一連の機構に対し、解析的モデルや粒子シミュレーション等を用いた解析からその解明に迫ることである。 1. ブラックホール近傍での電磁カスケードによる電磁場から粒子へのエネルギー変換過程を明らかにするため、電磁カスケードの結果として生成される粒子数に対してこの値を見積もるための解析的モデルを構築した。これは数値計算結果を解析する上で指標となる。 2. ブラックホール近傍での電磁カスケード現象を明らかにするため、粒子生成と一般相対論的効果を考慮したプラズマ粒子シミュレーションを行った。結果として、電磁カスケードによる粒子へのエネルギー変換効率、さらに観測されるガンマ線光度とエネルギースペクトルに対する背景光子場の依存性を明らかにした。 3. 連星中性子星合体からの重力波イベント GW170817 に付随したガンマ線イベント GRB 170817A に対して提案しているショートガンマ線バーストの散乱モデルは、このイベントに付随していた残光の観測データとも無矛盾であることを明らかにした。また、これまでは散乱成分の明るさは解析的な見積もりであったのに対し、散乱過程に対する数値計算を行うことで散乱成分の明るさの角度依存性を明らかにし、将来的に検出されるイベントの数が増えることで統計的に他のモデルと区別できる可能性を示した。
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