本年度は、ペルー北海岸のクルス・ベルデ遺跡で本格的な発掘調査を実施した。この調査によって、同遺跡に位置するマウンド状遺構が、小規模な漁撈民の集団的実践によって継続的に積み上げられた墳丘であったことが明らかになった。とくに、この建設活動にともなって、海産資源を中心とした食料残滓の廃棄活動や埋葬が同地点で行われていたことは興味深い。すなわち、この墳丘は食料残滓の廃棄場や埋葬施設といった複合的な性格を持ち、様々な集団的実践の痕跡が埋め込まれた初期のモニュメントであったといえる。そうした集団的実践は、そこに参加する定住集落の構成員をマウンドに結び付け、社会集団を形成、維持する紐帯となっていた。 また、これまでの調査で獲得した様々な考古遺物の分析を実施した。例えば、マウンドから出土した埋葬人骨の分析によって、性別や年齢、骨病変の有無などが明らかになり、マウンドに埋められた人骨が成人男性を中心としていたことや、漁撈民に特有の潜水病を有していることが確認できた。また、動物骨についても分析を行い、海獣や海鳥を中心とした海産資源利用の傾向が明らかになるなど、様々な成果を得ることができた。さらには、発掘調査によって採取した炭化物資料の年代測定を行い、このマウンドが紀元前4000年~紀元前3700年頃にかけて建設されたものであることを確認した。 以上のように、クルス・ベルデ遺跡は、アンデス文明初期の定住漁撈民が集団的に建設・利用した初期のモニュメントであったことがわかり、その建設過程とそれに伴う様々な集団的実践の存在が明らかとなった。こうした研究成果は、政治・経済・祭祀の中心であり、アンデス文明の興亡に深く関わってきたモニュメントの出現過程に迫るものであり、その研究上の意義は大きい。また、モニュメントと複雑社会をめぐるこれまでの研究を相対化しうる点でも重要といえる。
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