本研究の目的は、(1)強磁性共鳴法(FMR)を用いた強磁性金属超薄膜の軌道磁気モーメントの評価方法の確立と、(2)軌道磁気モーメントの異方性が電界の印加によって受ける影響の解明の2つである。本年度は、前年度の条件出しを基に、Pt/Fe/Pt/MgO及びPt/Co/Mg/MgO薄膜試料を作製し、ゲート電圧を印加した状態でFMR測定を行った。Pt/Fe試料において得られたFMRスペクトルから、正(負)電圧の印加時に、軌道磁気モーメントを反映するg因子の異方性及び、面直方向の異方性磁場Hkが共に増大(減少)していることが分かった。これらの傾向は理論予想や放射光を用いた先行研究と一致しており、軌道磁気モーメントの異方性の変化が垂直磁気異方性の電界変調の起源であることを示している。実際に、g因子の変化から同磁気モーメントの変化を見積もると、Fe層の界面に電荷が蓄積される方向に0.27 V/nmの電界を印加した際に、膜面直方向と面内方向の軌道磁気モーメントがそれぞれ4.0 %増大、2.3 %減少し、同時に垂直磁気異方性が11.2 μJ/m2増大していることが分かった。 次に、Pt/Co試料においては、Pt/Fe試料と反対の傾向が得られた。すなわち、Co層の界面に電荷が蓄積される方向に電界を印加した際に、g因子の異方性とHkは共に減少した。これはPt/Fe試料と同様に、軌道磁気モーメントの異方性の変化が垂直磁気異方性の電界変調を誘起している一方で、本系においては、垂直磁気異方性の電界変調方向が強磁性体の種類に依存することを意味している。 以上の結果は、強磁性共鳴法が軌道磁気モーメントの評価に有用であることを示し、また、磁性への電界効果の学術的理解を深めるものである。今後、合金化やヘテロ構造化を利用した、変調方向も含めた垂直磁気異方性の電界制御のさらなる発展が期待される。
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