研究実績の概要 |
今年度の研究においては、「1. ジアシルグリセロールキナーゼ (DGK) ηの双極性障害 (BD)に対する寄与の証明」、「2. DGKη-ノックアウト (KO) マウスのそう様行動の原因の解明」、「3. DGKηのDG分子種選択性の解析」という3点で進展が得られた。 まず、1.に関しては、DGKη-KOマウスの示すそう様行動が、BD治療薬であるリチウムによって緩和されることが明らかとなったことから、BDと同様の原因によって生じている可能性が高いことが示唆された。現在までのBDのモデルマウスは、BDに有効な薬剤から考えられたモデルマウスであるのに対して、我々のマウスは、遺伝子研究よりBDへの関与が示唆されている遺伝子を欠損させたマウスであるため、より正確なBDのモデルマウスである可能性が高いと考えられる。 次に、2.に関しては、DGKη-KOマウスの大脳皮質で、セロトニントランスポーターの異常活性化が起こっていることが明らかになり、シナプス間隙におけるセロトニンの濃度異常がDGKη-KOマウスのそう様行動の原因である可能性が示唆された。 最後に、3.に関しては、DGKηをノックダウンした神経芽細胞腫由来のNeuro-2a細胞では、生体内に豊富に存在するジアシルグリセロール (DG) 分子種の内、34:3 (含有する脂肪酸の炭素数の和 : 含有する脂肪酸の不飽和度の和) -, 36:5-, 36:4-, 36:3-DGといった「中程度の長さ」と「高い不飽和度」を持つDG分子種を選択的に代謝することが明らかとなった。また、DGKη-KOマウスの血中では、これらのDG分子種に由来すると考えられる18:2-, 20:5-リゾホスファチジン酸 (LPA) が減少していることも明らかとなった。このことから、DGKηの発現変化を伴うBDの診断にLPA測定が有用である可能性が示唆された。
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