今年度は、「1. ジアシルグリセロールキナーゼ (DGK) η-ノックアウト (KO) マウスのマイクロアレイ解析」、「2. DGKηの欠損がセロトニン系に与える影響」、「3. DGKη欠損が脳のPA分子種量に与える影響」という課題に取り組んだ。 1.では、DGKηの欠損により複数遺伝子の発現量が変化する系の同定を行った。その結果、向神経活性リガンド-受容体相互作用系、炎症性腸疾患系、血液凝固・補体系、グリセロリン脂質代謝系の4つが該当した。そこで、これらの系で変化が生じている遺伝子について検討を行ったところ、「セロトニン系」、「多価不飽和脂肪酸 (PUFA) 代謝系」という2つのキーワードが浮上した。これらは、昨年度までの研究結果を支持する結果と言える。 2.では、セロトニントランスポーター (SERT) により脳内からセロトニンが放出される「血中」と、セロトニンの95 %以上が産生される「小腸」のセロトニン濃度を測定した。その結果、血中では濃度上昇が見られたものの、小腸では変化が見られなかった。これらの結果と昨年度までの結果を合わせて考えると、DGKηの欠損により生じる異常はセロトニンの単純な増減ではなく、その循環の変調であることが考えられる。こうした循環の変調が局所的な濃度異常を引き起こし、DGKη-KOマウスのそう様行動を惹起している可能性があると考えられる。 3.では、DGKη-KOマウスの脳のPA分子種量の測定を行った。その結果、PUFAを含有するPA分子種が減少することが明らかとなった。これは昨年度に得られていた神経芽細胞腫由来のNeuro-2a細胞を用いた実験の結果と一致する結果であった。双極性障害 (BD) の有力な原因遺伝子として脂肪酸不飽和酵素が同定されていることからも、DGKηがこうしたPUFAの代謝を介して、BDに関与している可能性があると考えられる。
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