本研究は、国際機構であるイスラーム協力機構(Organization of Islamic Conference、以下OIC)に着目し、現代中東における宗派・宗教間の対立とその抑止政策について考察を行うものである。OIC加盟国の中でもヨルダンは、宗派間和合・宗教間対話の運動についてイニシアティブをとっている。本研究は、ヨルダンのイニシアティブの分析を足掛かりに、国際機構としてのOICが宗派・宗教間対話の問題に対して果たす役割について探求してきた。 今年度はOICが形成する宗教的事柄に関する首脳会議決議などについて、「国際世論」および「国際規範」といった分析概念を採用し、検討を行った。その結果、OICが形成する国際世論や国際規範には、イスラーム諸国が構成する国際機構に固有の特質があることが明らかになった。例えばOICで国際世論・国際規範を形成する際には、国籍・宗派を超えイスラーム法学者が集まって行われた合議に基づいた意見が提出される場合がある。こうしたケースにおいては、既にイスラーム法に照らし法的根拠が高い状態の意見が国家間の討議に持ち込まれ、OICのようなイスラーム的国際機構においては比較的コンセンサス形成が容易い傾向が明らかになった。 こうした分析内容について、国際ワークショップや研究会において口頭発表を行い、参加者からは非常に有意義なフィードバックを多く頂いた。 こうした研究活動の蓄積を生かしながら、本年度は博士論文の執筆に専心した。博士論文「現代イスラームにおけるスンナ派・シーア派和合論と多宗教間対話―ヨルダンとOIC(イスラーム協力機構)を事例として―」では、国家やその集合体としての国際機構の宗教的側面に焦点を当て、宗教的事柄についての意見形成やコンセンサス形成がどのように行われているかを明らかにした。本学位申請論文は所定の審査に通り、博士号を取得するに至った。
|