研究課題
本研究の目的は,小型衛星を用いた再突入ミッションや惑星探査ミッションを可能にする小型固体推進機の燃焼非一様性の解明及び横推力抑制手法の確立である.横推力が発生すると,小型衛星の軌道遷移や再突入に影響を及ぼすことが懸念される.大型推進機であれば,推力偏向機構を用いて横推力の影響を相殺することが可能であるため,横推力の抑制は行われてこなかった.しかし,電力や容積の厳しい制限を受ける小型衛星にはジンバル機構の搭載は難しく,横推力抑制手法の確立が必要不可欠である.また,主衛星に相乗りする形で打ち上げられることが多い小型衛星には厳格な安全基準が求められる.固体推進機には,誤着火が起きないようなインヒビットシステムが必要不可欠である.既存の固体推進薬ペレットを積層/クラスタ化することで,インパルス可変な小型固体推進機を提案し,ペレット数によらず安定作動が実現される積層/クラスタ手法を確立した.さらに,真空チェンバ内燃焼試験において,内壁で反射する高温燃焼ガスの影響を抑制した三軸推力測定系を構築した.構築した推力測定系を用いて,小型固体推進機の三軸推力測定を行い,軸方向推力及び横方向推力を評価した.さらに,予期せぬ誤着火を防ぐ安全装置として,レーザ着火システムを提案/構築し,小型固体推進系への導入に成功した.これにより,従来の電熱着火方式と比較して,低電力な着火システム,及び軽量なインインヒビットシステムが実現された.以上を踏まえ,モーターケース壁厚を薄くし軽量化を施したエンジニアリングモデルの小型固体推進機を設計した.推力測定を行い,想定通りの推進性能が得られることが示された.
1: 当初の計画以上に進展している
従来の小型固体推進機は,ある要求推進性能に応じた専用の固体推進剤を製造するか,非常に小さな固体推進薬を,要求推進性能を満たす分だけ搭載するかのどちらかであった.しかし,前者の手法では時間とコストが増大し,後者の手法では軌道離脱のようなより大きなトータルインパルスが要求されるミッションを遂行することができないという問題点があった.本研究員は,既存の固体推進薬ペレットを積層/クラスタ化することで,インパルス可変な小型固体推進機を提案し,ペレット数によらず安定作動が実現される積層/クラスタ手法を確立した.さらに,真空チェンバ内燃焼試験において,内壁で反射する高温燃焼ガスの影響を抑制した推力測定系を構築した.構築した推力測定系を用いて,小型固体推進機の三軸推力測定を行い,軸方向推力及び横方向推力を評価した.これらは衛星運用上必要不可欠なデータであり,高い価値を持つ.小型固体推進機の最大の課題は,打ち上げロケットの安全基準を満たすことである.予期せぬ誤着火を防ぐ安全装置として,レーザ着火システムを提案/構築し,小型固体推進系への導入に成功した.以上の実験結果を踏まえ,ケース壁厚を薄くし軽量化を施したエンジニアリングモデルの小型固体推進機を設計し推力測定を行い,想定通りの推進性能が得られることが確認された.これにより,宇宙実証機会が訪れた際に,迅速に対応できる状態が整った.小型固体推進機で得られたノズル流体や推力測定系に関する知見を生かし,水を推進剤として用いた小型推進機の研究への応用も行っている.
これまでの研究で得られたノズル流体や推力測定系に関する知見をもとに,水を推進剤とした小型スラスタを提案し,研究に着手している.安全無毒かつ,常温常圧で液体貯蔵可能な水を推進剤として用いることで,より小型かつ低コストな推進機が実現される.小型かつ低レイノルズ数という作動条件がノズル流れにどう影響を及ぼすかを解明し,最適なスラ歌形状を構築する.平行して,15kg級小型衛星を丸ごと搭載可能な推力測定系を構築し,衛星に統合された状態での推力測定を行うことで,より実機に近い環境での性能評価を行う予定である.
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Transactions of Japan Soc. for Aeronautical and Space Sci., Aerospace Technology Japan
巻: 14 ページ: Pa_53-Pa_59
10.2322/tastj.14.Pa_53