研究課題/領域番号 |
16J06911
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
一木 俊助 横浜国立大学, 環境情報学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 可微分写像の特異点 / 安定写像 / 距離二乗写像 / 線型摂動 / マザー理論 / 横断性定理 / ホイットニーの傘特異点 |
研究実績の概要 |
写像空間の中で少し摂動したとしても、依然としてその本質的性質が保たれるような性質の良い写像を安定写像とよぶ。安定写像はその良い性質故、多様体の研究等においても重宝される。本写像の既存研究としては、1960年代後半の構造安定性問題の完全解決で有名なJ. N. Mather(1942-2017)の研究等が有名である。Matherの安定写像に関する重要な結果の一つとして、ユークリッド空間内に埋め込まれた多様体上のジェネリックな射影の安定性に関する結果(Generic projections, Ann. of Math. 98 (1973), 226-245)がある。今年度、その結果の大幅な拡張に成功した。すなわち、単なるジェネリックな射影ではなく、勝手に与えた写像のジェネリックな線型摂動にまでより一般化した。更にその系として、研究課題の一般化された距離二乗写像の安定性に関する問題を(良い次元対において)肯定的に解決した。 一般に、多様体からユークリッド空間への写像が、埋め込み等の比較的良い性質を持つものであったとしても、その写像に対し勝手に与えたユークリッド空間間の写像を合成したとしても、その合成写像がよい性質を持つ写像になるとは限らない。しかし、上記の研究が発端となり、その勝手に与えたユークリッド空間間の写像をジェネリックに線型摂動してから合成すると、比較的性質のよい写像になるのではないか、という予想を立てた。その結果、多様体からユークリッド空間へのはめ込み及び単射写像と、ジェネリックに線型摂動したユークリッド空間間の写像の合成写像に関する2つの横断性定理及びそれらの応用を得た。 2次元平面から3次元空間へのジェネリックな一般化された距離二乗写像の特異点は、ホイットニーの傘特異点一つのみという現象は以前より得ていたが、その幾何学的解釈を与え、本現象が生じる理由を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は、研究課題の写像である「一般化された距離二乗写像」の高次元における安定性問題が最も難関であり本研究課題の大きな目標の一つだと考えていた。しかし、本年度の研究において、その問題を(よい次元対において)肯定的に解決するような、より一般的な形での強い結果が得られた。この結果は、1960年代後半の構造安定性問題の解決でも有名なJ. N. Mather(1942-2017)の安定写像に関する重要論文「Generic projections」(Ann. of Math. 98 (1973), 226-245.)の主結果の拡張でもある。その内容を以下に記載する。通常、多様体からユークリッド空間への埋め込み写像に対して、勝手に与えたユークリッド空間間の写像を合成して得られる合成写像が、必ずしもよい性質を持つとは限らない。それにも関わらず、勝手に与えた写像にジェネリックな線型摂動を施し、はじめに与えた埋め込み写像と合成すると、よい性質を持つ写像になるという結果である。本結果は、現在査読付きジャーナルに投稿中である。 その後、写像の線型摂動というアイデアが発端となり、はめ込み写像や単射写像と、ジェネックに線型摂動した写像との合成に関する横断性定理や、その応用もそれぞれ得ることに成功した。本結果も査読付きジャーナルに投稿中である。 また、2次元平面から3次元空間へのジェネリックな一般化された距離二乗写像の特異点は、ホイットニーの傘特異点1つのみという事実は過去発見していたが、本年度になり、その幾何学的解釈を与えることに成功し、現在査読付きジャーナルに投稿中である。 これらの事から、特に今年度は、当初難航するであろうと予測していた一般化された距離二乗写像の安定性に関する問題をはるかに一般化された形で解決できたため、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在の研究代表者の研究テーマは、「距離二乗写像」という写像に関する研究と、その研究の拡張でもあり、J.N.Mather(1942-2017)により完全解決された「構造安定性問題」の発展でもある「制約条件付き構造安定性問題」に関する研究である。 1つ目の「距離二乗写像」に関する研究は、今年になり、産業応用の観点からも注目され始め、企業の研究者とセミナーを開き情報共有等を行い、現在では共同研究にまで発展している。そこで今年度は、「距離二乗写像」を特異点論の枠組みだけではなく、産業応用の観点からも研究を行い、現在の共同研究をより発展させ、共著論文の投稿を目標とする。 後者の「制約条件付き構造安定性問題」は、研究代表者の専門分野である特異点論のなかでも大域的特異点論という、写像の大域的な性質を扱う分野の問題である。大域的特異点論の研究の本質的な道具の一つとして「横断性定理」という道具があり、カタストロフ理論で有名なルネ・トムや上述のMatherを始め、様々な数学者によって便利で強力な横断性定理が開発されている。その中でも、写像や空間等を限定しない一般的な形の横断性定理は希少であり、様々な特化された状況における横断性定理を導く際の重要な補題となる。現在そのような一般的な形の横断性定理の中では、Matherの発見したもの(Generic projectionsの主定理を導く際の大きな道具にもなっている)が最も強力である。そこで、研究代表者は、その定理の仮定を更に緩め、これ以上仮定を緩められない横断性定理の開発に取り組む。そして、その結果及びその応用を論文にまとめ、こちらも今年度中に査読付きジャーナルへの投稿を予定している。
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