研究課題/領域番号 |
16J06936
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
設楽 智洋 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 量子情報理論 / 量子Fisher情報量 / 非平衡統計力学 / 線形応答理論 |
研究実績の概要 |
近年、量子Fisher情報量という量が量子情報理論、物性理論、統計力学などの幅広い分野で研究されている。量子Fisher情報量は、量子状態の空間の上の自然な計量とみなすことができる。ここで、自然とは、「状態に対し操作を行うと単調に減少する」(単調性)という意味である。密度行列の非可換性に起因して量子Fisher情報量には無数の種類が存在することが知られているが、それらが単調性を超えてどのような操作的意味を持つかは知られていなかった。 本年度の研究では、統計力学における線形応答理論を用いて、量子Fisher情報量を実験的に決定する方法の提案を行った。まず、熱平衡状態における揺らぎと外場に対する応答の間の関係式である揺動散逸定理を一般化して、一般化共分散という量と外場に対する応答の間の定量的な関係式を求めた。これをもとに、線形応答関数を測定することにより一般化共分散及び量子Fisher情報量が決定できることを示した。今回提案した方法は、密度行列の全成分を知らなくても線形応答関数さえ測定すればどのような量子Fisher情報量も決定できるという利点がある。以上の結果は既に論文になっており、現在雑誌に掲載済みである。 また、上記の状態空間上の幾何学的構造と非平衡統計力学の間の関係を深める研究を行った。系のポテンシャルを時間変化させて操作した時の過剰仕事(自由エネルギー差を超えて系に与えた仕事)は、いくつかの近似のもとで操作パラメータ空間上の熱力学的計量から計算される長さで特徴付けられることが知られている。本研究では、それらの近似を系統的な摂動展開に置き換え、熱力学的計量による過剰仕事の評価に対する補正項を系統的に導出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、量子測定における情報や擾乱を評価する上で重要な役割を果たす量子Fisher情報量の操作的意義について、統計力学の観点から研究をすすめた。具体的には、線形応答理論を用いて量子Fisher情報量を実験的に測定する方法を提案した。また、当初の予定にはなかったが、Fisher情報量の情報幾何学的観点から非平衡統計力学を研究できる可能性に気付き、非平衡操作における過剰仕事に関する新たな研究を進めることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
FIsher情報量や情報幾何学の考え方は、量子測定の情報・擾乱を評価するのに役立つだけでなく、非平衡統計力学にも有効であることが分かった。今後は、量子Fisher情報量の情報幾何学的観点から、非平衡操作における様々な効率を評価、解析する手法を研究する。
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