研究課題
ビッグバン直後の高温・高密度状態の宇宙では,陽子・電子は電離状態にあった.しかし,その後の急激な宇宙膨張に伴う温度・密度の低下により,赤方偏移(z)1100にはそれらが結合し,中性水素主体の長い暗黒時代に入る.やがて形成される数多くの初代星・銀河から電離光子が放たれ,宇宙に満たされていた中性水素は再び大規模に電離される.この初期宇宙における現象を宇宙再電離と呼ぶが.z~10から6の間の電離史がどのようになっているのかは現在でも詳しく分かっていない.本研究の目標は,Lyα輝線で明るく輝く遠方星形成銀河"Lyα輝線銀河 (LAE)"を用いて,(1)6<z<7の時代の中性度xHI,(2)宇宙再電離の空間的進行度,について制限を付けることである.2015年にすばる望遠鏡/広視野撮像カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC) の大規模探査が開始された.特別研究員任期初年度は,この HSCデータを用いてz~6-7のLAE選択方法を構築し,合計約2000個のLAE候補天体を発見した.これらのz~6-7 LAE候補天体のLyα光の空間的広がりやLyα等価幅頻度分布など測光学的性質を統計的に調べた (Shibuya+17a in prep.).さらに約 2000 個の LAEの中からLyα光度が10^43 erg/sより明るいLAEの分光観測も行った.その結果,約30個の明るいLAEを分光同定することができた.それらの分光同定された明るいLAEのうち7天体に対し,深い近赤外分光観測を行い,静止系紫外線輝線の検出率も調べた.その結果,7天体全てから 強い静止系紫外線輝線は検出されなかった.先行研究で調べられた高赤方偏移銀河サンプルと比較すると,暗く軽い銀河ほど静止系紫外線輝線を強く出している可能性があることが分かった(Shibuya+17b in prep.).
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の目標は,Lyα輝線銀河 (LAE) を用いて,宇宙再電離史について調べることである.特別研究員 任期初年度は,すばる望遠鏡/広視野撮像カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC) の広領域データを用いて,合計約 2000 個の z~6-7 LAE 候補天体を発見した.これらの LAE サンプルの測光学的,分光学的性質を調べ,結果を Shibuya et al. 2017ab の 2 本の論文にまとめている最中である.HSCデータは非常に大規模であるため,画像に写る数億個の天体,偽天体の中から LAE 候補天体を選別することは容易ではない.しかし共同研究者との綿密な議論,系統的な選択手法の確立により,初年度中に LAE サンプルを構築することができた.さらに,「観測提案書の作成,提出,観測,観測データ解析」と数段階の研究プロセスを要する分光学的研究も同時進行させることができ,「暗く軽い銀河ほど静止系紫外線輝線を強く放射する」などの高赤方偏移銀河の性質に迫る新たな知見を得ることができた.以上のことから 研究員任期初年度は「期待以上の研究の進展があった」と評価する.
HSC探査の初期データを用いたLAE選択は,主に目視による画像チェックに頼っており,大変な労力を要する.HSC探査の次期データに対しては 機械学習などの手法を用いて LAE選択の自動化を図りたい.また 初年度に行われたLAEの分光研究では遠方銀河の静止系紫外線放射に関するいくつかの「傾向」が見られたものの,深い近赤外線分光観測は未だ数天体の明るいLAEに対してしか行われておらず,傾向が一般的かどうか定かではない.今後はケック望遠鏡などの地上望遠鏡を用いて,明るいLAEに対する系統的な近赤外線分光観測を提案,実行していく.さらに,ハッブル宇宙望遠鏡による高空間分解能の観測も進め,明るいLAEの銀河形態, 銀河合体の兆候の有無について調べていきたい.
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
MNRAS
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