研究課題/領域番号 |
16J07050
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
増田 高大 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 巨大ひずみ加工 / アルミニウム合金 / 結晶粒微細化 / 高強度 |
研究実績の概要 |
一般的な高強度アルミニウム合金では材料強化機構としてCuおよびMgによる固溶強化と析出粒子の微細分散による析出強化を活用しており、A2024合金はT3処理時で 480 MPaの高強度を有する。しかし、材料強化手段として結晶粒微細化強化も加えることができれば一層の強度向上が期待できる。そこで、本研究ではA2024合金に高圧スライド(High-Pressure Sliding)加工を適用し、高圧下で多量のせん断ひずみを導入することで結晶粒微細化を図った。 その結果、結晶粒を 200 nm以下に超微細化することに成功した。通常の圧延加工では圧下率を50%とするだけでも延性が極端に減少するが、HPS加工により結晶粒を微細化することで、延性低下を抑えたまま材料強度の向上が可能であることを明らかにした。さらに、HPS加工を施した後も異方性は小さく、強度・全伸び共に試料全体にわたって均質であることを確認した。加工直後の時点で全伸びを5%以上維持した状態で強度は 880 MPaを超えており、通常よりも低温で時効処理を行うことで結晶粒の粗大化を抑制したまま引張強度は 967 MPaに向上し、複数の強化機構の同時利用で市販材の2倍まで強度が向上できることを示した。本結果の詳細については日本金属学会誌 第80巻 第9号 (2016) pp593-601に公開している。 また、研究結果は国内学会(平成28年度合同学術講演大会、第159回日本金属学会)のみでなく、国際学会(GSAM2016:福岡、PRICM9:京都、NANOMAT2017:ブラジル)でも成果報告をしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
市販のA2024合金に高圧スライド加工を適用することで、現在までに強度を967 MPaまで向上させることができている。本研究では引張強度の目標値を1 GPaとして、現在はさらなる高強度化の可能性を調べている。そこで、高圧スライド加工のみでなく高圧ねじり(High-Pressure Torsion)加工法をA2024合金に適用し、せん断ひずみの導入量が機械的特性に及ぼす影響を調べるとともに、付与圧力や回転数といった加工条件の最適化を図っている。さらには、CuやMg以外の他の元素がアルミニウムの強度に与える影響を調べ、他元素の添加によるさらなる高強度化の可能性も調査している。現在は鉄原子の固溶による強度向上の調査のため、Al-Fe二元系合金に高圧ねじり加工を施し、その後の機械的特性を調べている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では現在までに市販材の2倍まで強度を向上させることに成功している。そこで、今後はこのような高強度を達成させたメカニズムの解明のために、透過型電子顕微鏡を用いた解析やアトムプローブ分析を行う。A2024合金では時効処理を行うことで微細な析出物が形成される。透過型電子顕微鏡を利用して形成される析出物の種類を調査するとともに、そのサイズや分布状態を調査する。また、アルミニウム合金の材料強度へは結晶粒径や析出物のサイズといった因子のみでなく微細なクラスタによる強化や固溶原子の結晶粒界への偏析なども寄与することが知られる。さらには、巨大ひずみ加工を用いて作製した高強度アルミニウム合金ではこのようなクラスタが形成されるといった報告もある。そこで、巨大ひずみ加工を行ったA2024合金にアトムプローブ分析を行うことで、固溶原子の分布状態やクラスタ形成の有無を調べる。
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