前年度までの研究で、A2024合金に高圧ねじり(High-Pressure Torsion)加工を利用し、本研究の目標である1 GPaの引張強度を達成した。さらにその微細構造を高分解能電子顕微鏡や3次元アトムプローブ分析により解析し、主要添加元素であるCuおよびMgが小角粒界を含めた結晶粒界上に偏析することを明らかにした。 本年度は、このような観察結果をもとに1 GPaの引張強度の定量性について金属材料の強化メカニズムから評価した。一般に大角粒界は転位の運動を妨げる役割を果たし、ホール・ペッチの関係により結晶粒が小さいほど材料強度が向上する。一方で、これまで小角粒界の存在は材料強度に大きく寄与しないとされてきた。小角粒界を効果的に利用することは、大角粒界と比べて、より小さなスケールでの強化が可能となる。本研究では従来の強化機構に加え、溶質原子が偏析した小角粒界も材料強度に繋がるとして理論的に強度を算出し、超高強度化に至るメカニズムを解明した。これにより、小角粒界への偏析は材料強度への寄与が大きく、超高強度アルミニウム合金の実現に重要な因子であることを明らかにした。 またAl-Fe合金の高強度化にも取り組んだ。Al中のFeは固溶量が0.052wt%と少なく、過剰のFeが含まれると凝固過程でAl3FeやAl6Feが形成されて延性が低下する。一方、Feはリサイクルの過程で蓄積されることから、不純物であるFe元素の有効活用が期待される。本研究でAl-2wt%Fe合金に巨大ひずみ加工を施すことで、超々ジュラルミンの強度に匹敵することを示し、その後の時効処理により700MPa以上へ向上できることを明らかにした。さらに、その微細組織は時効中も安定で、ピーク時効時においてもサブミクロンレベルの超微細粒組織が維持されることを示した。この結果は、国際学会(ICAA16:カナダ)で成果報告した。
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