研究課題/領域番号 |
16J07053
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
塩川 奈々美 徳島大学, 大学院総合科学教育部, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 九州方言 / シャル敬語 / 待遇表現 / グロットグラム / 方言 / 長崎街道 / 敬語運用 / 地域差 |
研究実績の概要 |
初年度は、資料収集や臨地調査を重ねながら、長崎街道グロットグラム調査の結果の中でも特にシャル敬語(待遇表現)の使用に関する調査結果の分析に努めた。 まず、飯塚市を中心とした調査地点において調査結果の報告ならびに追調査の依頼を進めつつ、地域の方言資料の収集をおこなった。収集した資料や長崎街道グロットグラム調査の結果をまとめ、2016年度変異理論研究会において研究発表(口頭発表)を行い、小倉から長崎にかけて行われるシャル敬語の分布の実態を地域差と世代差の観点から分析した。この発表時に得られたご教示を参考に、鹿島・大浦を地点にシャル敬語の運用に関する補填調査を企画した。鹿島市役所や太良町役場大浦支所の協力を得て、アンケート調査並びに談話資料の収集が実現した。鹿島では4世代の話者6名の方々にアンケート調査と談話資料収集に関するご協力を賜り、大浦では4名の方々について談話収集を中心に言語データを収集した。 さらにシャル敬語の動態に関する研究を深化させるべく、日本方言研究会第103回研究発表会において研究発表(口頭発表)を行った。上述した変異理論研究会での発表内容からさらに踏み込んだ分析を行い、敬語運用の現状に地域差と世代差が存在していることを指摘した。さらに、主語に「猫」や「雨」を置いた場合にもシャル敬語が行われ得ることを示したうえで、新たな運用方法が拡大する可能性があることを示唆した。 以上2件の発表内容をもとに、日本方言研究会の学会誌である『方言の研究』第3号掲載を目指し、論文を執筆・投稿した。この論文では、発表中に指摘したシャル敬語の特徴や動向に関する分析に加え、分析における地域の枠組みをより細やかにしたことにで、シャル敬語の運用を巡る特徴が小倉から佐賀において共通している様子を明らかにすることができた。論文投稿の結果として、『方言の研究』第3号への採用が決定(査読有)した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は仮説設定および検証のための臨地調査を重ねることで、調査対象地域における待遇表現の実態に迫ることができた。 長崎街道上の地域におこなわれる待遇表現のひとつ「シャル敬語」に着目し、長崎街道上の分布地域を明らかにした上で、先行研究では明らかにされてこなかったシャル敬語の運用面における地域差を指摘することができた。また佐賀県鹿島市と太良町大浦地区において臨地調査を実施したことによって、この敬語運用の共通性が有明海沿岸地域に展開している様子を明らかにした。 この調査結果から、シャル敬語が分布する地域におけるシャル敬語の体系上の役割について考察し、今後、その現状がさらに変化していく可能性にも言及した。この研究成果は日本方言研究会の学会誌に投稿し、査読付き論文として採用された。 研究目的の一つであった待遇表現の体系把握の観点を以て調査を展開し、分析したことによって、運用面の枠組みを明らかにすることができ、査読付き論文の採用という目標を達成することができた。待遇表現に関する目標がおおむね達成されたと言える。 また、言語地図化の確立を目指し、膨大な言語データを用いたGISやRによる言語地図の作成にも取り組んだ。報告者が所属する研究機関のGISの専門家に教示を仰ぎ、地域言語の動態に関するテーマで国外における研究発表をこなし、言語地図作成に関する新たな技術を身に着けることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は日本方言研究会や九州方言研究会など九州方言の専門家が集う場で積極的に発表を行い、モダリティ要素など細やかな分析が求められる文末詞バイ・タイに関する分析や、一段活用動詞にみられるラ行五段化が適用される動詞の傾向に関する分析を進めていく。さらに、これまでの研究成果分析の中で、九州地方において行われるイ語尾・カ語尾の適用の傾向についても興味深い特徴が見受けられた。この形容詞語尾の視点も踏まえ、これらの方言事象の分析・考察にあたっては、複数回にわたる臨地調査における仮説の検証作業が必須であることが予想される。これまで以上に積極的にフィールドワークを行うことを心がけたい。また、これらの研究成果は国内外の学会・研究発表会での報告し、論文化を進めていく。
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