研究課題
本研究はTIMSを用いたジルコンの高精度U-Pb年代分析法の確立、地球史初期の生物痕がのこる豪州・ノースポール地域の造構場の復元を目的とする。今年度は、高精度ジルコン年代測定法に特化した化学操作行程の立ち上げに加え、実試料であるアダメロ岩中のジルコンの予察分析に努めた。高精度・高確度にU-Pb同位対比を測定するためには、全実験行程を通じた鉛混入量を2pg以下に抑えることが必要不可欠となる。まず、私を含む東京工業大学グループは高純度な試薬の選定を行った。次に、難溶性鉱物であるジルコンを少量の酸でも分解するため、専用の加圧分解器具を製作した。これにより、ジルコン1粒あたり僅か100μLの酸にて分解可能となった。分解後のU・Pb化学分離行程においても、非常に小さいカラム(容量50μL)を製作することで少量の酸かつ短い作業時間でのU・Pb単離が可能となった。今後は、最適化された分析行程を通じた鉛混入量の定量を行い、更なる鉛混入量の低減に努める。また、TIMSを用いたU-Pb年代分析法を実試料に適用することを見据え、既にノースポール地域・北側に貫入するアダメロ岩よりジルコンを分離、京都大学設置のICP-MSを用いて予察的にU-Pb年代測定結果を取得済みである。その結果、アダメロ岩の貫入年代が3454Maと推定され、ノースポール地域の地層が3454Ma以前に形成されたことが明らかとなった。一方、年代分析されたジルコンの約9割以上がメタミクト化の影響故に、そのU-Pb閉鎖系を保持されていないことが分かった。このように、原生代以前のジルコン年代測定を行う上ではメタミクト化の影響に注視する必要があり、試料の選定段階でふるい分ける事が好ましい。また、今回行ったアダメロ岩のジルコンU-Pb年代測定の結果はノースポール地域の年代制約を行う上で重要な知見となるため、既に国際誌への投稿中である。
3: やや遅れている
高精度のU-Pb年代同位対比分析を行う上で、当初、申請者は試料外から混入する鉛量を10pg以下に低減する事を目標に定めてきた。しかし、Pb同位対比・U-Pb元素比を精密測定する上で必要不可欠なスパイク溶液はEARTHTIMEと呼ばれる科学財団より提供されるのだが、その入手には化学操作中の鉛混入総量が2pgを下回る必要があることが新たに判明した。現状、ジルコン1粒より同時にPb-Pb・U-Pb年代を得ることができないため、実試料への適用が困難である。これが上記区分を選択した最大の理由であり、当面はEARTHTIMEより提供されるスパイク溶液の入手が課題となる。一方で、実試料(アダメロ岩)の予察分析結果は、ノースポール地域に産するジルコンの特徴を知る上で大きな知見をもたらした。アダメロ岩中のジルコンの多くはメタミクト化に伴うダメージを受けており、そのU-Pb閉鎖系が現在まで保持されていない事が明らかとなった。TIMSを用いたU-Pb年代分析ではジルコン1粒を完全分解する必要があるため、実試料へ適用する際、メタミクト化のダメージが少ないジルコン粒子を選定する事が鍵となる。上述のアダメロ岩の年代制約結果ならびにメタミクト化についての記載は現在投稿中の論文にまとめられている。
最優先されるべきは実験中の鉛混入量を2pg以下まで低減し、EARTHTIMEよりスパイク溶液を入手することである。申請者は各学会を通じて鉛混入量の低減に必要なノウハウを獲得済みである。大きな改善点としては容器の洗浄法ならびに高純度試薬の精製などがあげられ、2016年度に引き続いて実験行程の最適化に努める。その後、鉛混入量の定量を行い、最適化された分析行程を通じた鉛混入総量が2pg以下になっていること確認し、EARTHTIMEへスパイク溶液の申請を行う。スパイク入手後、同位対比が既知とされる標準ジルコン(Nancy91500)の年代測定を行い、その分析結果が参照年代値である1065Maを示す事を確認する。以上より、ジルコンの高精度U-Pb年代測定法の確立となるため、ノースポール地域の実試料(凝灰岩・流紋岩)への適用にうつる。まずは、アダメロ岩の予察分析結果をもとにメタミクト化の影響が小さいジルコンのみを選定する。その後、本研究が立ち上げた化学操作行程に従って年代分析を行い、凝灰岩・流紋岩の火成年代を決定する。これにより層序間の年代の前後関係を明らかとなるため、ノースポール地域に露出する地層が付加体であるのか、もしくは大陸上で形成された一連整合の地質体であるのかを判定する予定である。博士課程3年間の成果を博士論文としてまとめると共に、結果を国際誌に投稿する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology
巻: 459 ページ: 182-197
doi.org/10.1016/j.palaeo.2016.07.008