本研究は35億年前の地層が露出する豪州・ノースポール地域を対象とし、その造構造場復元を目標に掲げてきた。研究目標の達成には高分解能の地質年代決定が求められるため、これまで私は化学処理工程を要するジルコン年代測定法(ID-TIMS法)の開発に取り組んできた。一方、予察分析結果は、(1)ジルコンの多くがメタミクト化の影響から閉鎖系を保持していない、(2)メタミクト化の領域は複雑な構造を呈することを示唆した。こちらの結果は、ジルコン一粒を酸分解するID-TIMS法ではメタミクト化部分の混入が避けられず、正確な年代値の取得が困難であることを示唆する。そこで、本研究はジルコン表面に低エネルギーのレーザーを照射し、非メタミクト化部分を選定するPre-ablation法を確立した。こちらのPre-ablation法は既にノースポール地域のアダメロ岩の年代決定に用いられ、その結果は国際誌にて印刷決定済みとなる。 ノースポール地域では玄武岩及びチャートから構成される海洋地殻の断片が全4ユニットにわたり繰り返す。Pre-ablation法を用いて各ユニットの層序年代を決定すると、構造的下位にあたるユニット3では34.90-34.89億年前、構造的上位にあたるユニット4では34.51-34.40億年前という年代値を取得した。ユニット間の年代差は有意となり、層序間の年代極性は「構造的上位ほど若い年代」を示し、顕生代の付加体に認められる「構造的上位ほど年代が古い」という年代極性とは合致しなかった。また、緑色岩の微量元素定量分析結果は玄武岩マグマ中への地殻物質混入の影響を示唆した。以上の結果より、本研究はノースポール地域の海洋地殻が背弧海盆などの沈み込む帯直上の造構造で形成したと判断した。
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