特別研究員(DC1)採用最終年度となる本年度は、3年間の集大成として、博士論文「人権条約における人権条約機関と個別の国家機関との関係――『国家単一・国家主権』モデルから『国家解体・補完性』モデルへ――」の執筆に最優先で取り組み、博士号(法学)を取得することができた。 博士論文においては、人権条約の「実効性」「民主的正統性」問題を背景とした、人権条約機関による条約適合性審査および条約違反の際の救済・賠償命令に関する近年の新しい実行を、人権条約のアクター間の関係すなわち人権条約機関と個別の国家機関との関係という視座から分析し、従来は一体として捉えられてこなかったそれらの実行を、共通の法的・理論的基盤に基づいて統一的・整合的に把握することを可能にするモデルを探求した。そして、その結果、独自のモデルとして「国家解体・補完性」モデルを提示した。このモデルによれば、人権条約機関(欧州人権裁判所、米州人権裁判所、自由権規約委員会)と、「国家」を構成する個別の国家機関(裁判所、議会および国内人権機関(NHRI))は、ともに、「人権条約共同体」を単位とした「枠づけられた熟議民主主義」のアクターとして協働し、それらアクター間の権限配分は「補完性」原則に基づいてなされる。そして、こうしたモデルが立脚する理論的基盤は、いくつかの重要な側面において、伝統的国際法(学)が拠って立ってきた根本原則や大前提を揺るがすものである。
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