研究課題/領域番号 |
16J07090
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
小出 康裕 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科(八景キャンパス), 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | レクチン / SUELファミリー / 自然免疫 / Gb3 / MytiLec-1 / ムラサキイガイ |
研究実績の概要 |
ウニ卵から精製した、αガラクトシド結合性レクチンSUELの一次構造からPHYRE2サーバーで立体構造予測を行った。3つのαヘリックスと5つのβシート構造を持ち、ヒト脳における女郎蜘蛛由来ラトロトキシン神経毒の受容体、ラトロフィリンと似たフォールデングが認められた。未受精卵において細胞内にアモルファスに存在したSUELは、受精と共に卵膜直下に移動、原腸胚期では、原腸と上皮に局在したがプルテウス幼生期に発生が進むにつれて消失した。この観察からSUELは発生初期に働き、特に食物の通過する消化管における自然免疫に働くと考えた。SUELファミリーに属す魚卵レクチンSALはGb3糖鎖への結合を認め、この糖鎖を細胞表面に持つリンパ腫細胞Rajiに加えると、細胞内情報伝達活性化を経て、細胞表面の多剤耐性タンパク質の発現が抑制された。SUELファミリーにはウニの自然免疫からがん細胞の情報伝達活性化とタンパク質発現制御を起こす高いポテンシャルを持つと推察された。 SUELファミリーと同様にαガラクトシド・Gb3に結合するが、全く新規なR型レクチン、MytiLec-1を軟体動物ムラサキイガイから精製した。40%のアミノ酸を置換し、3サブドメインが相同するアミノ酸配列からなる単量体型人工MytiLec-1の腫瘍細胞に対する作用を調べた。蛍光標識した人工型をRaji細胞へ投与した実験から、人工型は細胞表面に結合し、メリビオース共存下では結合は抑制された。立体構造研究から、天然型は149アミノ酸からなるポリペプチド鎖のサブユニットが非共有結合した2量体で、サブユニット内の3箇所の糖鎖結合性部位には、全て糖が結合した。天然型はRaji 細胞を凝集し、細胞死を引き起こしたが、人工型はいずれも起こさなかった。この結果、サブユニット中に複数の糖鎖と結合する部位が存在しても、MytiLec-1が細胞凝集と細胞死を起こすには、二量体構造を取ることが必須であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
海洋無脊椎動物由来のレクチンは、それを産生する生物の種の多様性、遺伝子の多様性を反映して、陸上生物のレクチンに無い、多様な糖鎖構造を認識する性質を有する。海洋無脊椎動物レクチンの特徴を活かし、ヒト腫瘍細胞の壊死因子としての活性と、無脊椎動物体内での役割の両方の視点から研究している。その成果として、本年度は査読のある学術書の分担章を筆頭著者として執筆できたこと、タンパク質工学的に作り出した人工レクチンの腫瘍細胞に対する活性を明らかにしたこと、二枚貝と環形動物から発見した、互いに全く異なるアミノ酸配列を持つR-型レクチンの組織内局在性を明らかにする研究に取り組み、何れのR-型レクチンも、外来物と接触の多い器官での高い発現を認めた。これらの研究結果から、当初の計画以上の進展が見られたと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
海洋無脊椎動物体内におけるレクチンの作用を推察するため、ヒト腫瘍細胞に対し抗腫瘍活性を示したMytiLec-1に代表される海洋無脊椎動物R-型レクチンは、無脊椎動物体内でどういう局在性を有しているかを免疫組織化学的に調べた。ムラサキイガイ由来MytiLec-1、イシイソゴカイ由来PnLはいずれもR-型(植物毒素リシンB鎖様立体)構造を持つレクチンで、それらを大量に精製して、免疫し抗血清を得た。ムラサキイガイとイシイソゴカイの凍結組織切片を得て、それぞれのレクチンの局在性、その他糖鎖の局在性を調べている。
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