研究実績の概要 |
これまでの解析において得られた対流構造は、「上昇流: 強, 下降流: 弱」という関係を示していた。しかしながら、光球対流構造の理論研究で予想されていたのは、上層部でガスの放射冷却による圧力勾配を作ることでもたらす「上昇流: 弱, 下降流: 強」という大小傾向であった。つまり、本解析結果と理論との予想は、逆の大小関係である。その原因としては、望遠鏡の結像性能による画像の劣化によって引き起こされると考えられたため、画像回復手法を新たに導入することで問題点の解決を目指した。画像回復手法のベースとしては、Richardson-Lucy (RL) 法と呼ばれるものを用いた。RL法は、太陽物理学の分野で用いられる手法であるが、ノイズ成分を増大させる難点を抱えていた。そこで、申請者は、正則化項(ノイズ成分の増幅を抑制する項)をRL法に新たに組み込むことで、問題解決を目指した。なお、その手法に対する妥当性の検証する必要があったため、数値計算コードの開発が急進的であるドイツ/マックス・プランク研究所へ渡航を実施した。習得した数値シミュレーションコードから光球大気の画像を再現してテスト画像として用いた結果、ノイズ成分の増幅を抑制した上で、従来用いられたRL法よりも画像を精度良く復元できることを確認した。さらに、本手法を「ひので」の分光データへ適用したところ、対流速度場が、理論で予想されていた傾向へ大きく近づくことが確認できた。本研究成果については、国内の多数の学会(天文学会年会・太陽研究者連絡会シンポジウム・宇宙科学シンポジウム)において報告した。また、さらに詳細に解析した成果について、今後国際学会にて発表し、論文に投稿する予定である。
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