研究課題
本研究課題では、銀河形成・進化の最盛期と呼ばれている赤方偏移(z)が2の時代をさらに10億年ほど遡ったz~3-3.6の時代の星形成銀河に着目している。本年度はまず、本研究でz>3の星形成銀河の指標として用いている[OIII]輝線の有用性を定量的に検証する研究を行った。z~2.2において[OIII]輝線とHα輝線とでそれぞれ選ばれた銀河サンプルについて星質量や星形成率、ダスト減光量といった物理量を比較し、二つのサンプルの間に系統的な違いは見られないことを示した。Hα輝線は、どの赤方偏移においても星形成銀河の良い指標であることを考えると、この結果は、遠方では[OIII]輝線を用いても大きなバイアスなく星形成銀河を拾うことができること、すなわち[OIII]輝線が指標として有用であるということを示唆している。これは、我々の進めているz>3の[OIII]輝線銀河探査の有効性を示す重要な研究となった。また、z~3.24の[OIII]輝線銀河の近赤外線分光観測をKeck望遠鏡のMOSFIREと呼ばれる装置を用いて行い、[OIII]輝線銀河のより詳細な物理状態を調べた。得られた複数の輝線を用いてガスの金属量を求め、z~3.24の星質量-金属量関係を調べた。z~2.2の先行研究のサンプルと比較したところ、この二つの時代の間で星質量-金属量関係に大きな進化は見られないことが分かった。我々の2015年の論文の結果とあわせると、z~3.2とz~2.2の間で銀河の星形成活動性や金属量は星質量に対して大きく進化せず、z>3においてすでに最盛期の星形成銀河と同程度の活動性を獲得していることが分かった。その一方で、星質量の分布を見てみると、z>3の星形成銀河は明らかに低質量側にオフセットしており、z~3.2からz~2.2にかけて銀河の星質量自体は加速度的に成長していくことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度はまず、[OIII]輝線の遠方の星形成銀河の指標としての有用性を検証するという研究を進めた。この研究はイギリスの研究グループとの共同研究として進めた。この研究の結果は、論文としてまとめすでに出版されている。これによって初めて、[OIII]輝線を用いても大きなバイアスなく遠方の星形成銀河のサンプルを構築できるということを定量的に示すことができた。そして、z~3.24の星形成銀河の星間空間の物理状態を調べるために、[OIII]輝線銀河の近赤外線域の分光データを取得してその解析を進めた。これによって[OIII]輝線銀河の金属量や電離状態などを明らかにすることができ、そういった物理状態が最盛期の星形成銀河とほぼ違わないことを示した。これらの結果についても、すでに論文としてまとまっており、近日中に投稿予定である。こちらの研究についても、イギリスのグループとの共同研究のもと進めている。以上の研究成果と、2015年の論文の結果とをあわせて、博士論文を完成させた。そして3月には学位を取得した。また、それに加えて今年度は、z>3の[OIII]輝線銀河をターゲットとしてその内部構造を分解しようという観測提案をすばる望遠鏡(IRCS+AO188)に提出した。加えて、同じ手法ですでに撮られているz~2.5の星形成銀河の撮像データの一次処理と解析も進めた。これによって、データ解析のノウハウを取得することができたので、来年度z>3の銀河についてデータが得られた際には、スムーズにデータ解析を行うことができ、素早く結果までたどり着くことができるはずである。以上のことから、本研究課題は概ね順調に進んでいると言える。
z>3の[OIII]輝線銀河の内部構造を分解しようという観測提案をすでにすばる望遠鏡に提出済みであるので、来年度はまず、この観測を通して得られる高空間分解能のデータから、z>3の星形成銀河の星のサイズと星形成領域の中心集中度を調べるという研究を主に進めていく。この観測では、すばる望遠鏡のIRCSとAO188を用いて、Kバンドと狭帯域フィルターでの撮像観測を行う。z>3の銀河の星のコンポーネントのサイズを調べるためには、Kバンドでの高空間分解能の観測が重要となる。これはHバンドまでしかないハッブル宇宙望遠鏡ではできない、非常にユニークな観測となっている。また、狭帯域フィルターとAOを組み合わせることで、銀河の輝線放射領域を空間的に分解することができる。これによって銀河の星形成領域の中心集中度を調べることができる。先行研究によるシミュレーションの結果では、星形成活動が活発になっている銀河では、銀河衝突や外部からのガスの流入が起こっており、それによって中心集中度の高い星形成領域が形成されるということが示唆されている。z>3の個々の銀河について星形成活動性と星形成領域の中心集中度との間の関係を調べることで、それを観測的に確かめる。現在提案中の観測では、高密度領域に存在する[OIII]輝線銀河をターゲットとしているので、今後は最盛期以前の銀河の内部構造に関する環境効果を調べるために、一般フィールドの[OIII]輝線銀河についても同様の観測を行う観測提案を提出する。さらにその後は、星と星形成領域の構造の情報が得られたサンプルについて、さらにダストとCO分子輝線を高い分解能で観測するという提案を大型電波干渉計であるALMAに提出していく。この観測によって、コンパクトでかつ非常に活発な星形成領域の存在をより直接的に確かめることができるようになる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
巻: 462 ページ: 181-189
10.1093/mnras/stw1655