研究課題/領域番号 |
16J07133
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小野 大帝 九州大学, 総合理工学研究院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 低圧酸素プラズマ / 成長促進効果 / 一重項励起酸素分子 / チオール化合物 / 遺伝子発現解析 / シロイヌナズナ / 植物ホルモン |
研究実績の概要 |
本年度は,(1)植物に酸化ストレスを生じさせる低圧酸素プラズマ中の主要な活性酸素種の特定,(2)低圧酸素プラズマ照射から成長促進に至るまでの植物内の生体反応を見出すことを目的として研究を行った. (1)ファイバー分光器を用いて,低圧酸素プラズマ中の活性酸素種の同定を行った結果,OHラジカルや一重項励起酸素分子,五重項酸素原子を見出した.活性酸素種が植物に与える酸化の度合いを定量化するため,植物細胞内のチオール化合物を定量化した.低圧酸素プラズマを照射したかいわれ大根種子中のチオール化合物量と低圧酸素プラズマ中の活性酸素種である一重項励起酸素分子の発光強度の圧力依存性は,同様の傾向を持つことが分かった.従って,植物に酸化ストレスを生じさせる低圧酸素プラズマ中の主要な活性酸素種は,一重項励起酸素分子と考えられる. (2)遺伝子解析用モデル植物であるシロイヌナズナを用いて,低圧酸素プラズマを照射したシロイヌナズナ種子の遺伝子発現解析を行った.その結果,植物ホルモンであるジャスモン酸に関連するシグナル伝達経路を制御する遺伝子発現量が,未照射の種子の遺伝子発現量と比較して減少していることが明らかになった.ジャスモン酸は成長抑制物質として知られており,低圧酸素プラズマによる植物の成長促進効果は,ジャスモン酸が関与する生体反応の抑制が要因の1つであると考えられる. 酸素プラズマを用いた植物の成長促進技術は、環境に無害であるなどメリットが多く,従来の植物成長促進技術に代わる新しい技術になると期待される.本技術の実用化のためには,植物に影響を与えるプラズマ中の粒子種やメカニズムの解明が重要であり,本年度で得られた結果は本技術の実用化に大きく貢献するものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低圧酸素プラズマを用いた植物の成長促進効果のメカニズムの解明のために,植物に酸化ストレスを生じさせるプラズマ中の活性酸素種と酸素プラズマ照射によって生じる植物内の生体反応の特定を行った.植物の個体差が研究目的遂行の大きな妨げとなり,実験手法の確立や実験データの再現性取得に大幅な時間を要した.そのため,植物に酸化ストレスを生じさせる活性酸素種の特定に関する実験期間を当初計画より約1-2か月延ばした.遺伝子解析により,成長促進に関係する遺伝子だけでなく成長促進に関係しない遺伝子が数十個発現することが分かった.そのため,成長促進に関係する遺伝子だけを抽出し個々の遺伝子を詳細に調べるために多くの時間を要した.植物に酸化ストレスを生じさせる酸素プラズマ中の主要な活性酸素種と成長促進に関係する生体反応経路を見出すことができた.これらを踏まえて,研究の進捗状況はおおむね順調であると思われる.
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今後の研究の推進方策 |
次年度では,低圧酸素プラズマで誘導される植物の成長促進のメカニズム解明を引き続き行う.植物の個体差を解決するために,未分化植物細胞塊であるカルスを用いる.酸素プラズマを照射したシロイヌナズナのカルスに対して遺伝子解析を行い,酸素プラズマ照射から成長促進に至る生体反応の特定を行う.植物の成長促進が生じるにあたり,(I)細胞の大きさの変化, (II)細胞増殖速度の変化の2つの原因が考えられる.(I)に着目し,未照射及び酸素プラズマを照射したカルスの細胞の大きさを計測する.両者の細胞の大きさを比較することで,成長促進効果の原因を明らかにする. プラズマによる植物の成長促進効果に関する研究で得た知見を用いて,大気圧プラズマ中の活性種を用いた動物細胞の活性制御に関する研究を行う.本研究では,(1)動物細胞の活性化または不活化現象が生じる場合のプラズマの照射時間や電力等のパラメーターを見出す.(2)動物細胞の活性化または不活化現象が生じる際に変動する遺伝子発現量と細胞培養液中の活性種の濃度とを比較し,動物細胞に影響を与える活性種を特定する.(3)PCRやマイクロアレイ解析等による遺伝子解析を行い,プラズマ中の活性種の照射によって誘導される動物細胞内の生体反応の特定を試みる.
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