研究課題
生体と調和するナノ薄膜型電子デバイスの創製に向け、柔軟性と生体接着性に優れたエラストマーナノ薄膜を創製した。具体的には、Poly(dimethylsiloxane) (PDMS)からなる自己支持性ナノ薄膜(膜厚300 nm~1600 nm)を調製した。PDMS薄膜は、膜厚の減少に伴い生体組織表面に対する接着エネルギーは増大し、ナノ薄膜(600 nm)はバルク(800 μm)に比べ約4倍の接着性を示した(国内特許出願済)。さらに、ポリドーパミン(PDA)をPDMSナノ薄膜表面に修飾することで、生体組織への接着性はさらに向上し、膜厚600 nmにおいては修飾前の約5倍の接着エネルギーを示した(PCT出願準備中)。続いて、生体組織への密着・追従性に優れたナノ薄膜型生体電極を作製した。具体的には各種高分子ナノ薄膜上に、インクジェットプリンタを用いて導電性高分子PEDOT:PSSおよびAuナノ粒子を印刷し、電極と配線を搭載したナノ薄膜型生体電極を作製した。このナノ薄膜型生体電極は接着剤・粘着剤を用いずに皮膚表面に密着・追従することができ、医療用ゲル電極と同等の性能で表面筋電位を計測可能であった。動物用小型ICタグをPDA修飾エラストマーナノ薄膜で封止し、ラット腹腔内の腹壁に貼付・固定することで、in vivoにおけるナノ薄膜型無線デバイスの安全性・安定性および無線通信能を評価した。PDA修飾エラストマーナノ薄膜の接着性によってICタグを30日以上安定にラット腹壁上に固定できることを動物用マイクロCTにて確認した。さらに、PDA修飾エラストマーナノ薄膜で封止したICタグは埋植から30日後にも共振周波数(13.56 MHz)が検出可能であった。従って、PDA修飾PDMSナノ薄膜によって小型ワイヤレスデバイスを生体組織上に長期間安定に固定できることをin vivoにて実証した。
2: おおむね順調に進展している
初年度の主な成果は、エラストマーからなるナノ薄膜の調製法を確立したことである。エラストマーとしてPDMSを用いたナノ薄膜は、高い柔軟性と密着性、そして機械的安定性を有し、生体組織表面へ貼付する適応においてその信頼性と機能性を大幅に増大させることにつながった。この成果は、特許出願となった。さらに、エラストマーナノ薄膜をプラットフォームとし、導電インクを印刷したナノ薄膜電極やICタグを封止したナノ薄膜型無線デバイスの作製に成功した。一方、表面をポリドーパミン修飾することで生体内における貼付安定性を飛躍的に向上できた点は当初の計画では予期していない良い結果であった。
ナノ薄膜電極は、高い柔軟性と追従性を有することから、皮膚などの生体組織に貼付した際に、組織そのものの伸展・収縮を妨げずに微小な変形を検出可能であることを予備実験にて実証した。そこで、今年度はナノ薄膜歪みセンサとしての論文発表を予定している。また、昨年度から行っている動物実験を通して、ナノ薄膜型無線デバイスの生体内における安全性・安定性を引き続き評価する。当初は、電気刺激による生体の治療を目的としていたが、電気治療と並行して今後は光治療も展開する。具体的には、無線発光デバイスを用いた光線力学療法や、オプトジェネティクスを検討している。
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