研究課題/領域番号 |
16J07159
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
植松 明子 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 脳発達 / 高磁場MRI / DTI / マーモセット |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ヒト代替動物モデルと期待される、ヒトに比較的近い家族性、社会性をもつ小型霊長類のコモンマーモセットを用いて、記憶や情動に関連する大脳辺縁系の脳発達における形態変化をMRI装置から得られる画像によって解明していくことである。この目的を達成すために平成28度は、
① 最適撮像条件の検討・確立:コモンマーモセットのMRI脳画像において、小動物用超高磁場MRI装置(Bruker社・7Tあるいは9.4T)における画像データ(T1強調画像、T2強調画像、拡散強調画像)の最適撮像条件の検討を撮像時間、解像度、脳領域別コントラスト、信号雑音比 (signal-noise ratio)、ヒトで用いられている既存解析手法や解析ソフトとの兼ね合い、の観点からおこない生体と標本用でそれぞれ確立した。 ② データ取得と解析:確立した最適撮像条件を用いて同一個体で継時的に画像データを取得し、関心領域である大脳辺縁系の中で比較的に解析がしやすい海馬から解析を進めている。手法として、先行研究(Hashikawa et al., 2015)で作成されたコモンマーモセット用の脳領域分けされたラべリングマップを用いて、コンピューター処理にて半自動的に領域を算出する解析法を確立した。その手法を用いて、発達段階にある海馬体積をT1・2強調画像から、ラべリングされた海馬内の水分子の動きの方向や拡散のしやすさを示すFA値、MD値、AD値、RD値を拡散強調画像から算出し、月齢における脳構造変化を解析している。 ③ 疾患・病変比較対象個体としての飼育・養育環境の確立:撮像している対象動物は今後疾患モデルと比較されていくこと、また国際的に実験動物管理基準が厳しくなっていく状況も踏まえ、正常かつ健康的に育つようエンリッチメントを意識した飼育環境とストレスを出来うる限り軽減した実験環境を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究実施計画は1)コモンマーモセットの発達をおっていくにあたり、小型動物用超高磁場MRI装置(Bruker社・7テスラあるいは9.4テスラ)で生体脳、標本脳用それぞれの最適撮像条件を確立すること。 2)確立した撮像条件のもと、大脳辺縁系に含まれる脳領域を解析をすすめいていくこと。3) 将来疾患モデルとの比較ができるよう、また動物倫理に沿った実験が行えるよう動物の養育環境・撮像時の実験環境を整えること。であった。 研究計画書に沿って、撮像時間、解像度、脳領域別コントラスト、信号雑音比 (signal-noise ratio)、ヒトで用いられている既存解析手法や解析ソフトとの兼ね合い、の観点からおこない生体と標本用でそれぞれ最適撮像条件を確立することができた。確立された条件のもと、現在までに生体では100時点以上(7T =114 , 9.4T=48)、標本では20時点以上(9T=21)の発達データを撮像している。解析では、大脳辺縁系の一部である海馬領域から取り掛かり始め、画像処理・統計分析によって発達に伴う海馬体積変化や拡散強調画像から得られる領域内の(推測される)細胞構造変化を解析している。解析結果においては、随時国内外の学会で発表をおこなった。また飼育・養育環境を整えるという観点では、新生仔は毎日体重を計測し、3仔で産まれた、あるいは母親の母乳の出が悪い・産後状態が悪化等の理由から体重減少がみられる場合は補助哺乳を行い対応した。またヒトと対応づけていくため、少なくとも思春期が終わるまでは家族(両親・兄妹等)内で飼育できるよう大型ケージを2つトンネルでつないで広さを確保し、遊具(ブランコ等)を入れエンリッチメント対策・「遊び」による情動発達を促している。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終目的は大脳辺縁系の脳発達を理解していくことにある。よって今後は解析していく関心領域を海馬だけではなく、帯状回、扁桃体など他の大脳辺縁系と言われる領域にもひろげ、発達における各領域それぞれの変化、神経構造の変化を示す領域間の関係性の変化を検討していく。具体的には、平成28年度に海馬解析で行っている月齢に伴う体積変化、領域間の関係性を検討するには、水分子の動きの方向や拡散のしやすさを基に神経繊維束を推測するFA値、MD値、RD値、AD値を引き続き他の領域でも行う。また、それぞれの領域の発達の仕方に類似性、相違性があるのかも検討していく。さらに領域間の相互関係も検討していく。この関係性を検討するには、水分子の動きの方向や拡散のしやすさを基に神経繊維束を推測するTractographyという解析法があるが、ヒトやマウスなど異なる動物種の先行研究に記載されているパラメーターでの解析は適切な結果を得られなかった。その為、今後はまずマーモセットにおいて適した結果を得るために最適解析パラメーターを解剖学的な知見に基づき検討・確立し研究を進めていく。
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