研究課題
本研究の目的は,タンパク質による標的DNAへのアクセスがクロマチン環境により制御される仕組みを理解することである.そこで本研究では,クロマチンの超解像イメージングと,転写因子の1分子イメージングを基軸とし,それらの関係性についての研究を進めている.採用2年目である2017年度は,2016年度に確立したイメージングの技術を用いて,生細胞におけるクロマチン構造の超解像イメージングと転写因子の1分子イメージングを実際に行い,そのデータを解析した.2017年度に得られた主な成果は以下の3点である.①TSAの投与やクロマチン関連タンパク質であるコヒーシンののノックダウンにより,生細胞においてクロマチン構造が変化することが観られた.一方で過去の研究でその機能性が示唆されていたCTCFはノックダウンを行っても,クロマチン構造の変化は観られなかった.②細胞におけるRNAポリメラーゼII/転写因子のイメージングをクロマチン超解像イメージングと組み合わせて行った結果,RNAポリメーラゼや転写因子はクロマチンドメインの中に侵入せず,主に表面上に結合することが示された.この結果は,クロマチンドメインという構造は,DNAに対するタンパク質によるアクセスを制限し,検索空間を縮小することで転写検索の効率化に寄与していることを示唆している.③クロマチンドメインとその内部のヒストンを観察する方法を確立し,クロマチンドメインが非常に密に詰まった物理的構造を持つことを示した.これらの成果の一部は論文誌Molecular Cellにおいて発表を行った.
1: 当初の計画以上に進展している
クロマチンの超解像イメージングと転写因子やRNAポリメラーゼのイメージングを基に,転写因子とクロマチンドメインの関係性を示すことができた.これらの成果により,クロマチンドメインは核内において転写因子が検索可能なDNA領域を制限することにより,転写の効率化に寄与していることが示唆された.これらの成果は,本研究課題で提案したクロマチンと転写因子の標的DNA検索の問題におけるモデルの一つとなる.
2017年度に得られたそれぞれの成果をさらに発展させ,クロマチン環境の変化と転写因子動態の変化を明らかにする.クロマチンドメインの物理的性質と転写因子の関係性について,それぞれ論文にまとめ発表する.昨年度末からハーバード大学で始めた減数分裂期における相同染色体検索に関する問題についてもライブセルイメージングを中心に研究を進める.
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Nuclear Architecture and Dynamics
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