研究課題/領域番号 |
16J07228
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大石 康平 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / 発現抑制 / N末端アセチル化 |
研究実績の概要 |
A型インフルエンザウイルス蛋白質PA-XはmRNAを分解することで、ウイルス感染時の抗ウイルス応答であるIFN-βおよび抗ウイルス抗体の産出を阻害し、宿主によるウイルスクリアランスに対抗する。しかしながら、PA-Xがどのような機序でmRNAを分解しているのかわかっていない。そこで、PA-XによるmRNA分解メカニズムを明らかにし、インフルエンザウイルスにおけるPA-Xの重要性を明らかにすることを目的とし研究を行っている。 これまでに酵母を用いたスクリーニングから、A型インフルエンザウイルス蛋白質PA-Xの酵母におけるmRNA分解活性に必須な遺伝子としてNat3およびMdm20が同定されている。Nat3およびMdm20はヘテロダイマーを形成し、N末端アセチル化酵素複合体NatBとして機能する。このNatBはN末端にM-E、M-DおよびM-Nという配列をもつ蛋白質を認識し、そのN末端にアセチル基を付加する。PA-XはN末端にM-Eという配列をもつため、PA-XはNatBによりN末端アセチル化を受け、それにより活性を有してるのではないかと仮説を立て、その検証を行った。 N末端2番目のアミノ酸を置換した変異体PA-Xを作製し、それらの酵母および哺乳類細胞における活性を評価した。NatBによりアセチル化され得る配列をもつ変異体PA-Xは野生型PA-Xと同程度の高い活性をもつ一方で、その他のNatファミリーによりアセチル化され得る配列をもつ変異体PA-Xは低い活性しか示さなかった。この結果から、PA-XはNatBによりN末端アセチル化されることでmRNA分解活性をもつことが示唆された。 さらに、免疫沈降法と質量分析法を組み合わせた手法により、哺乳類細胞にて発現させたPA-XのN末端がアセチル化されていることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PA-XがNatBによるN末端アセチル化を受けることで活性をもつのではという仮説を立て検証を行い、その仮説を示唆するような成果を得ることができた。また実際にPA-XのN末端がアセチル化されていることを質量分析により確認することができた。
さらにNatBを哺乳類細胞においてノックアウトした細胞株の樹立にも成功した。 これらのことから、これまでの研究はおおむね計画通りに進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
NatBをノックアウトした哺乳類細胞の細胞株が得られているので、これらの細胞株におけるPA-Xの活性を評価することで哺乳類細胞においてもPA-Xの活性にNatBが重要であるかどうかを検証する。 NatBノックアウト細胞においてPA-Xの活性が低下した場合、哺乳類細胞においてもPA-Xの活性にNatBが重要であることが示唆される。そこで、NatBノックアウト細胞にて発現させたPA-XのN末端がアセチル化されていないことを質量分析により確認する。さらにN末端アセチル化されたPA-XとされていないPA-Xを精製し、そのmRNA分解活性をin vitroで評価する。 NatBノックアウト細胞においてPA-Xの活性が低下しない場合、酵母と哺乳類細胞においてNatBの標的蛋白質が異なることが考えられる。ヒトではNatBの他に、N末端アセチル化酵素がNatAからNatFまで存在しこのような別のアセチル化酵素がヒト細胞でのPA-XのmRNA分解活性に寄与している可能性が考えられる。そこで、これらの遺伝子をノックアウトした細胞株を樹立し、それらの細胞におけるPA-XのmRNA分解活性を調べることでヒトでのPA-Xの活性に寄与するアセチル化酵素遺伝子の同定を行う。
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