研究課題/領域番号 |
16J07230
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
木下 隆将 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 細菌検出 / 分子鋳型 / 金属ナノ粒子 / 散乱光 |
研究実績の概要 |
食中毒や感染症の原因となる細菌を迅速かつ高感度に検出,同定することは暮らしの安心,安全を守るための重要な課題である。本研究では,均一かつ強い散乱光と特定細菌への結合性を併せ持つ分子鋳型ナノ粒子を用いた細菌検出法の開発を目指している。当該年度は光散乱特性を有する金属ナノ粒子に特定細菌表面の化学構造に基づく分子鋳型ポリマ層を形成したコンポジットナノ粒子を作製し,その散乱光特性,および特定細菌への結合性の評価を行った。 コンポジットは金ナノ粒子の特性に基づく均一かつ強い散乱光を発現し,暗視野顕微鏡により明瞭に観察された。コンポジット表面のポリマ層にEscherichia coli(E. coli)O157のリポ多糖に基づく分子鋳型を形成したところ,コンポジットはE. coli O157に結合し,菌体の光散乱強度を約5倍増大した。また,暗視野顕微鏡によると,菌体表面からはコンポジットに特徴的な散乱光が明瞭に観察された。一方,E. coli O26およびO-roughへのコンポジットの結合は確認されなかった。 これまで,特定細菌への結合性は抗原-抗体反応により達成されることが一般的であった。しかし,生物の免疫応答による抗体の作製は1か月以上の期間を必要とする。本法によれば,人工抗体として機能する分子鋳型ナノコンポジットを数日で作製することが可能である。さらに,同一プロトコルで種々の鋳型を形成することが可能であるため,特定細菌の簡易かつ迅速な検出だけでなく,各種病原性細菌やウイルスなどの新たな脅威に速やかに対応することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度は,(1)均一な光散乱特性を持つコンポジットナノ粒子の作製,(2)コンポジットナノ粒子への細菌表面の化学構造に基づく高精度鋳型形成を目標に研究を行った。 N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAm)を基幹としたモノマ水溶液に塩化金酸,分散剤としてドデシル硫酸ナトリウムを加え重合することにより,金ナノ粒子-共重合ポリマから成るコンポジット粒子を得た。粒度分布測定の結果,108 ± 25 nmの均一な粒径を持つ粒子が得られたことが分かった。コンポジットは広い波長域の光を散乱することで均一で強い散乱光を発現し,暗視野顕微鏡(DFM)により明瞭に観察された。これらのことから,年次計画1年目の目標(1)を達成した。 上記した共重合モノマ水溶液にEscherichia coli(E. coli)O157より抽出したリポ多糖を加え重合することによりO抗原をポリマへ取り込み,続いて透析することで吐き出しを行った。このようにして作製した鋳型形成コンポジットを細菌懸濁液に添加し,DFM観察を行ったところ,E. coli O157の表面からはコンポジットに特徴的な散乱光が明瞭に観察された。一方,E. coli O26,O-roughは空気と水の屈折率差に基づく弱い光として観察され,コンポジットは基板上に分散状態で観察された。E. coli O157の波長600 nmにおける光散乱強度はO26,O roughの約5倍の値を示した。これは分子鋳型がE. coli O157表面のリポ多糖を識別し,コンポジット粒子がE. coli O157にのみ特異的に結合したことを示している。これらのことから,年次計画1年目の目標(2)を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
検出感度,および選択性の観点から,コンポジットの環境安定性について評価する。コンポジットの基幹ポリマであるN-イソプロピルアクリルアミドは温度感応性ポリマであり,32℃以下では親水性を示し,32℃以上では疎水性を示すことから,温度がコンポジットの光散乱特性や特異結合性に与える影響について詳細に調べる。金属ナノ粒子の光学特性は分散状態に強く依存するため,ポリマが相転移を起こすことにより,その特性が失活することが懸念される。そこで,ポリマの相転移温度前後における温度サイクルを繰り返し,各温度において吸収スペクトルを測定することにより,光学特性の温度変化に対する耐久性を試験する。また,コンポジット粒子が目的細菌に特異結合するための適正温度を調べる。 さらに,試料溶液中の共存バクテリアや不純物が検出精度に与える影響について調べ,非特異吸着の抑制や不純物除去などの前処理工程についても検討する。得た知見を元に,最適な使用条件を確立するとともに,コンポジット形成における最適化を行う。
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