子のう菌類の種多様性の全容を解明するためには、従来の分類基準に加え無性世代の形態学的特徴や分子系統情報を積極的に取り込む必要がある。本研究では全生活環に基づく分類体系の基盤構築から、有性世代に基づく従前の科の概念の妥当性を再検討した。 (1) ロフィオストーマ科の事例: Lophiostoma bipolare 類似菌について複数の領域に基づく分子系統解析と形態観察を行った。結果として、本菌群には11種の隠ぺい種が含まれ、ロフィオストーマ科内で既知の3属と6新属に散在することを明らかにした。 (2) メラノンマ科の事例: 広義メラノンマ科には無性世代の特徴で明らかに異質なグループが含まれることを明らかにした。結果としてメラノンマ科を再定義した上で1 新科 2 新種1 新組み合わせを提唱した。無性世代の形態学的特徴から宿主植物との共進化の関係も明らかにした。 (3) ロフィオトレマ科の事例: 広義ロフィオトレマ科について 複数の領域に基づく分子系統解析と形態観察を行った。結果として、ロフィオトレマ科を再定義した上で3 新科7 新属8 新種2 新組み合わせを提唱した。 申請者は、有性世代を重視した従前の分類体系の問題点を明らかにし、全生活環に基づき子のう菌類の科概念を再構築した。結果として、無性世代により科概念が補強される事例、無性世代により科が分割されるグループの事例、無性世代のみで構成されるグループの事例を明らかにした。これらのサンプリング調査の過程で付随的に発見した分類学上興味深い属や種については、共同研究の論文で発表した。本研究で用いた標本は弘前大学菌類標本室 (HHUF) に寄贈され、菌株は国内のカルチャーコレクションへ保存・寄託され、種同定に使われる配列はDDBJ に登録された。今後、本研究の成果物は、微生物資源として利活用されることが期待される。
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