本年度は,前年度までに提案した音空間共有型音場合成法の実システムにおける音場の再現精度の評価および合成される音場の主観的評価の調査を行った。 具体的に,まず前者では,実際にある157chスピーカアレイを用いて音空間共有型音場合成法による2領域の音場の合成行い,この合成音場を計測することで音空間共有音場合成法の実システムにおける音場再現精度の性能評価を実施した。ここでは,平面波音場と球面波音場の2つの音場を合成対象とし,それぞれの音場を252ch球状マイクロホンアレイにより計測した。計測結果から,音空間共有型音場合成法により,どちらの音場も2領域の合成が可能であることを確認した。この結果から,音空間共有型音場合成法が,実システムにより複数の聴取者に高精細な音場を合成・再現できる手法であることが示された。この結果を研究会,学会において対外発表した。 つぎに,音場再現精度と合成音空間の主観的な評価では,主観評価の対象として合成音空間の空間性に着目して,目的音場に対する再現誤差と,空間性の劣化度合いの関係を調査した。ここでは,劣化範疇尺度法を用いて,誤差のない音場と誤差を含んだ音場とを聴取させ,誤差のない音場からの音空間の空間性の劣化度合いを評定オピニオン評点として評価させる実験を行った。実験の結果から,音場の誤差がおよそ-6dBまでが音空間の劣化を許容できることを示した。この値は,上述の実験や前年度までに行った数値シミュレーションにおいて用いた再現精度の基準と同等の値となり,一連の研究における性能評価の正当性を示すものである。 以上の結果およびこれまでの研究成果を博士学位論文としてまとめた。
|