研究課題/領域番号 |
16J07343
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小泉 敬彦 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 外生菌根菌 / 生物多様性 / 微生物 |
研究実績の概要 |
近年、世界各地で森林の分断化が急速に進行し、生物多様性の危機が深刻化している。森林の分断化は、生息地を狭めるだけでなく、生物の移動や遺伝子の流れを妨げ、種を絶滅に追いやるなど、生物の多様性に大きな影響を及ぼす。こうした知見は動植物では得られている一方、目に見えない微生物では全く得られていない。森林の樹木の生育を支えているのは菌根菌という微生物であり、これら微生物に関する知見を得ることは森林生態系を健全に維持する上でも重要であると考えられる。本研究では、森林の分断化が菌根菌の群集構造(種多様性・種組成)および遺伝構造(遺伝的多様性・遺伝組成)に及ぼす影響について明らかにすることを目的とする。研究対象地には、最終氷期から高山に隔離されてきた歴史を持つハイマツ集団を設定し、共生する菌根菌を本研究の解析対象とした。国内のハイマツ分布域を網羅するように調査地(9カ所)を設定し、菌根サンプリングを実施した。菌根のDNA抽出物から得た菌根菌のrDNAの塩基配列に基づいて菌種同定を行い、菌群集のデータを得た。群集構造からは分断化による直接的な影響は検出されなかったものの、菌根菌の種多様性と土壌環境(酸性度など)の間に強い関連が示唆された。さらに、菌種組成ではより広域スケールの気候要因(気温など)との関連が示唆された。これらの成果は、今後の環境変化が菌根菌群集に及ぼす影響の予測に大きく貢献すると考えられる。野外サンプリングにおいて、ハイマツに共生する新種のショウロ属菌の子実体を採取することができた。本菌種は、現時点で8カ所の調査地でDNAが得られていることから、集団遺伝解析の対象種とした。採取した子実体から菌株を取得できたため、これを基に集団遺伝マーカーの開発を行った。これにより、分断化が菌根菌に及ぼす遺伝的な影響を調べるための解析準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画当初に予定していた調査地7カ所に加え、さらに2カ所での菌根サンプリングを達成できた。各調査地における菌根菌群集データおよび環境・地理データの取得をすでに完了した。これらを用いて空間・環境要因と菌根菌の種多様性、種組成の関係を解析することができた。また、ハイマツに共生する菌根菌2種に関する新種記載論文も受理された。この新菌種のうち1種(ハイマツショウロ)を対象とした集団遺伝解析のため、本菌種の核マイクロサテライトマーカー(12座)を開発し、それらの有効性の検証まで完了した。これらの成果より、当初の計画通りに作業が進行していると判断したため。
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今後の研究の推進方策 |
新規マーカーを開発したハイマツショウロに加え、既にマーカーが開発されている近縁種とハイマツを対象に集団遺伝解析を実施する。後者2種に関しては解析マーカーを充実させる。これら複数種の解析結果を比較することで、分断化が及ぼす影響を詳細に検討する。
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