研究課題/領域番号 |
16J07365
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
浅岡 希美 京都大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
キーワード | 強迫性障害 |
研究実績の概要 |
本研究ではquinpirole反復投与による強迫性障害モデルマウスの作製および予測妥当性を満たすような評価系の確立を目指した。Quinpiroleの反復投与は、強迫性障害様の確認行動の増加を引き起こしたが、第一選択薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の長期投与による治療効果発現は認められなかった。しかしながら、SSRIにより、モデルマウスの多動は改善されたことから、一定の側面での改善作用があることが示唆された。 近年の臨床研究より、強迫性障害患者では、行動学習の際に習慣の形成が起こりやすいことが報告されている。そこで、モデルマウスにおいても、確認行動に代わる評価指標として、過剰学習による習慣の形成の評価を試みた。T字迷路を用いた左右弁別試験において、過剰学習後の逆転学習効率の変化を評価したところ、モデルマウスにおいて逆転学習の著しい障害が認められた。一方、SSRIを長期投与することで、モデルマウスで見られた逆転学習の障害が改善された。 さらにモデルマウスより、強迫性障害患者で活動性亢進が報告されている眼窩前頭皮質の急性単離切片を作成し、眼窩前頭皮質神経の活動性を記録したところ、投射神経である錐体神経の神経活動性がモデルマウスにおいて亢進しており、SSRI長期投与によりこの活動亢進は改善した。また、SSRIの長期投与は、縫線核セロトニン神経の自発活動性を亢進させていた。以上の検討より、SSRI長期投与はセロトニン神経活動の亢進を介して眼窩前頭皮質神経活動を抑制し、モデルマウスで見られた習慣の易形成の改善に関与すると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
強迫性障害モデルマウスの作製に関しては、当初の評価系である確認行動試験では既存の治療薬の応答性を評価することができなかった。この問題点を解決する実験系確立に時間を要したが、習慣行動の形成を指標とする新規評価系の導入することで解決に至った。この評価系においては、強迫性障害治療の第一選択薬であるSSRIが効果を示すことから、SSRIの治療メカニズムの解析や、新規治療候補薬の探索に応用が可能であると考えられる。 病態、治療メカニズムの解析のための、急性単離切片を用いた電気生理学的解析では、モデルマウスにおける眼窩前頭皮質の神経活動性の異常、およびSSRIによる治療効果を検出することができた。具体的には、眼窩前頭皮質の投射神経である、錐体神経にcurrent injectionを行い発火活動を記録したところ、モデルマウスでは発火数が増加し、SSRIを長期投与することでコントロールマウスと同程度の発火数まで減少した。これは、眼窩前頭皮質の錐体神経の活動性異常が強迫性障害の病態、治療に関与する可能性を示唆する結果である。 一方で、SSRIの長期投与による治療効果発現のメカニズムについて、縫線核セロトニン神経の活動性変化にも着目して検討を行った。縫線核セロトニン神経は自発的な発火活動性をもち、長期間SSRIを投与することでその自発活動性は亢進した。これは、通常時に働いているGABAB受容体由来の抑制機構が、SSRI投与によって減弱することに起因する現象であり、治療メカニズムの解明という点だけではなく、セロトニン神経の活動性調節機構の解明という点でも新規な知見であることから、現在、この結果については論文投稿準備中である。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、昨年度の電気生理学的な検討によりに明らかにした、強迫性障害モデルマウスにおける眼窩前頭皮質の神経活動性の異常、およびSSRIによる治療効果に関して、詳細なメカニズムを検討する。SSRIの長期投与時には、各種セロトニン受容体のシグナルが変化していると考えられるため、薬理学的手法により、セロトニン受容体の関与の有無および関与する受容体の種類について検討する。また、眼窩前頭皮質は、皮質-線条体-視床-皮質回路の一部を担う領域であることから、眼窩前頭皮質の投射先領域である、背内側線条体の入力量及び、神経活動性の変化についても併せて検討を行う。これらの検討より、モデルマウスにおける臨床所見の再現性を評価するだけではなく、病態、治療における眼窩前頭皮質-背内側線条体経路の変化の関与についても検証を行う。 また、昨年度に導入した習慣行動の形成を指標とする新規評価系は、予測妥当性に優れる評価系ではあるが、スループット性に問題があるため、今後はこの評価系に加え、自発的な反復行動を指標とした評価系の確立を目指す。具体的には、quinpirole反復投与後のホームケージ内での毛づくろい、巣作り行動の異常反復に着目する予定である。また、上記の電気生理学的検討によって、病態や治療効果発現に関与する脳部位、神経経路が判明した場合、ケミカルジェネティクスやオプトジェネティクスを用いた神経活動の操作を行い、症状の変化を観察することで、強迫性障害症状を引き起こす責任脳部位についても検討を行う予定である。
|