TPTの高分解能での構造解析を目指し、結晶化条件の改善を試みた。まずは、昨年度に結晶が得られた高熱性紅藻類由来のTPTタンパク質に関して、基質との共結晶化スクリーニングを行うことにより、リン酸、あるいは3-ホスホグリセリン酸の存在下で良質な共結晶を得た。次に、これらの結晶を最適化し、放射光施設においてX線回折実験を行うことで、高分解能の回折像を得ることに成功した。これらのデータに関して、階層的クラスタリングを用いたデータ処理と、分子置換法を用いた位相決定を行うことにより、それぞれ分解能2.1 A、2.2 Aでの構造決定に成功した。決定した構造から、基質の結合並びに輸送に関わる残基を特定し、それらの残基に関する変異体を、リポソームを用いた基質輸送アッセイにより解析した。その結果、基質結合部位に存在する正電荷を帯びたアミノ酸残基が基質の結合と輸送に重要であることを見出した。この結果に基づき、負の電荷を帯びた基質と正の電荷を帯びたアミノ酸残基との静電的相互作用によって、輸送体の構造変化が引き起こされるというモデルを立案した。このモデルを検証するため、分子動力学シミュレーションにより、TPTタンパク質の脂質二重膜中での挙動を解析した。分子動力学シミュレーションの結果、基質の結合に依存した構造変化が見受けられ、静電的相互作用に基づくコンフォメーション変化のモデルが裏付けられた。これらの結果から、TPTによる交換輸送機構に関するモデルを提唱した。
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