本研究では、代謝と増殖・分化のマスターレギュレーターであるMammalian/mechanistic target of rapamycin complex 1 (mTORC1) に着目し、細胞内コレステロール輸送が骨芽細胞の増殖・分化に与える影響およびそれらの制御機構の解明を目的とした。 細胞内コレステロール輸送を阻害することが知られているセラミドアナログ1-phenyl-2-decanoylamino-3-morpholino-1-propanol (PDMP) で処理したマウス前骨芽細胞MC3T3-E1では、細胞増殖および骨芽細胞分化が抑制された。また、PDMP処理によりmTORC1の活性が抑制され、オートファゴソームの形成が促進された。免疫蛍光細胞染色により、mTORC1およびリソソームにおけるmTORC1の足場であるRagulatorの細胞内局在が、PDMP処理によってリソソームから小胞体へと移行することが観察された。共免疫沈降法を行った結果、リソソーム膜上に常在するmTORC1活性化因子RhebとmTORC1との相互作用がPDMP処理により障害された。 以上より、PDMPはmTORC1の細胞内局在をリソソームから小胞体へと変化させることにより、mTORC1とRhebとの相互作用を障害することでmTORC1を不活性化し、MC3T3-E1の細胞増殖および骨芽細胞分化を抑制することが示唆された。また、PDMPは小胞体の管状構造形成を引き起こすことが報告されており、小胞体の管状化は他のオルガネラとの膜接触を促進する可能性があることから、本研究におけるmTORC1の移行にはリソソームと小胞体の膜接触が関与する可能性が示唆された。
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