現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般に、+U法のパラメータU_effは実験結果を再現するように設定される他、近年では、種々の理論的計算から導出されるようになった。しかし、得られる電子構造や物性値がU_eff値に顕著に依存するにも関わらず、同じ物質に対しても様々な値が理論的に報告され、実験に寄らない第一原理的材料設計のためには信頼し得るパラメータ導出が求められている。 平成28年度は、原子球を仮定したマフィン・ティン(MT)球において異なる半径を用いたときのパラメータU_effの変化について、系統的に調べた。ここでは、上記の基礎的な課題を解決するために、強相関電子系材料の典型モデルである遷移金属酸化物TMO(TM=Mn, Fe, Co, Ni)に着目した。U_eff値は、線形応答理論に従い全エネルギーの局在軌道電子数に関する二階微分から算出し、全ての計算は、密度行列に対してLagrange未定乗数法を導入した拘束密度汎関数理論に基づく全電子FLAPW法により行った。計算結果から、MT半径の増加に伴いU_eff値が減少したことから両者の強い依存性を確認した。しかし、バンド計算からは価電子帯においては同一の電子構造が得られた。以上の結果は、異なる電子状態計算手法間で同等のU_eff値を用いることは許されず、MT半径に対して導出した固有のU_eff値により同一の基底状態の電子構造が得られることを示唆している。 本手法を金属フタロシアニンに適用した。ここでは、3d, 4d, 5d系の遷移金属元素のMT半径をそれぞれ2.00, 2.40, 2.45 bohrとした。計算の結果、例えば3d系ではおよそ2.5 ~ 3.5 eVのU_eff値が得られ、参考文献と比較したところ同程度の値となった。4d及び5dのU_eff値も導出し、これらから、実験に依らない金属フタロシアニン分子材料の理論的設計のための基礎が構築を構築した。
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