研究課題/領域番号 |
16J07426
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
水野 紫津葉 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2020-03-31
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キーワード | 流れ藻 / 東シナ海 / モジャコ / アカモク / 粒子追跡実験 |
研究実績の概要 |
2012年3 月の東シナ海沖合流れ藻調査時に7調査点で流れ藻と同時に採集されたブリ稚魚の耳石日周輪解析を行った。耳石(扁平石)を摘出した。耳石は裂溝を上にしてスライドグラス上にマウントし、完全に硬化させた。ラッピングフィルム粒度3ミクロンと0.5ミクロンを用いて適宜研磨し、耳石日輪計測システムを使用して光学顕微鏡の透過光で輪紋を計数した。輪紋数から推定された日齢は28~69日で、ブリ稚魚は孵化後30日から流れ藻に随伴するとされる既往知見と一致していた。得られた日齢から、東シナ海沖合域で採集したブリ稚魚の孵化日は1月14日~2月23日と推定された。次に、ブリ稚魚の発生海域を九州大学応用力学研究所の提供する海流モデルDREAMSによって計算された流動場を用い、粒子逆追跡実験により推定した。ブリ稚魚は表層性であることから、DREAMSの表層流(0-8m)の6時間平均の流動場を使用し、遊泳力は著しく弱いとして粒子は受動輸送とした。その結果、ブリ稚魚の発生海域は採集地点の南西部と推定された。この結果は、ブリの親魚、卵、稚魚、水温の分布から推測される産卵海域と重なっていた。 また、東シナ海沖合域の流れ藻の日本沿岸への到達時期を調べるために、粒子順追跡実験を実施した。その結果、東シナ海大陸棚上の底深100-200mの海域に広がって北東へ輸送され、太平洋側へは4月上旬、日本海側へは3週間から1ヶ月程度遅れて4月下旬に輸送された。 以上の結果から、東シナ海南部で孵化したモジャコは、2月頃に流れ藻に遭遇し、4月上旬に日本沿岸の太平洋側へ、4月下旬に日本海側へ輸送されることが示された。これらの流れ藻は春季に実施される流れ藻を利用したモジャコ漁に大きく寄与していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では東シナ海沖合域に3月に分布する流れ藻と随伴するモジャコについて、日本沿岸への来遊時期を粒子追跡実験によって推定することができた。モジャコの耳石輪紋解析ははすでに確立された手法であるため、日齢を推定することが問題なくできた。粒子追跡実験は、これまでより詳細な実験を実施するために、使用していた日平均の流動場から6時間平均の流動場に変更し、プログラムの改良を行った。 以上から、研究はおおむね順調に進展していると判断された。
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今後の研究の推進方策 |
春季に鹿児島県を中心に実施されるモジャコ漁では、適切な漁期の設定のため、東シナ海沖合域からの流れ藻の来遊時期の予測が望まれている。流れ藻の来遊時期は、産地と考えられる中国浙江省沿岸におけるアカモクの生育状況や、岩などの基盤から剥離して流れ藻となる要因である強い沿岸波浪の影響を十分に考慮する必要がある。今後は中国沿岸のアカモク分布域を正確に把握し、粒子逆追跡実験によって推定された産地と比較することで、日本沿岸へ来遊するアカモク流れ藻の産地の特定が必須である。このためにはアカモクの分布域を明らかにする現地調査と、流れ藻の遺伝的多様性から産地を推定する手法を適応し、毎年の日本沿岸への加入状況を把握することが重要である。さらに、流れ藻はブリのみでなくマアジ等の稚魚の生育場として機能しており、東シナ海沖合域の表層の生態系において重要な役割を果たしている。これらの産地におけるアカモクの生育状況をモニタリングすることで、流れ藻の東シナ海沖合域への持続的供給を維持する科学的知見を提供する必要がある。
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