グラフェン量子ドット中の電子のスピンは、スピン-軌道相互作用や超微細相互作用といったデコヒーレンス要因が少ないため、固体量子ビット等の量子情報処理素子実現のキーファクターとして期待され注目されている。量子ビット素子開発のためには、グラフェンで制御性の良い量子ドット素子を作製し、電子一個を閉じ込める必要がある。しかし、電荷不純物やエッジラフネス等に起因するポテンシャル不均一性により、意図しない多重量子ドットがグラフェン中に形成され、ドット数を正確に定義することが困難となっている。本研究ではグラフェン素子に単一量子ドットを定義するために、これまでに行ってきた電荷不純物の検出及び低減する方法、さらには二次元原子層絶縁体である六方晶窒化ホウ素でグラフェンを挟み込んだ積層ヘテロ構造作製技術を組み合わせることにより、主にエッジラフネスに起因するポテンシャル不均一性により形成されるドットが単一となるグラフェン素子構造を探索した。様々な寸法の単一狭窄構造を持つ素子を作製し、低温において電子輸送特性を調べた結果、バックゲート変調のみで単一量子ドットが支配的となるクーロンブロッケード特性が観測される狭窄寸法を見出した。第一原理計算を用いた解析によりこの輸送特性が狭窄構造に現れるメカニズムを調べた結果、チャネルの電子輸送方向への閉じ込め効果により局所状態密度の離散化および透過係数スペクトルの共鳴準位が現れることが分かり、狭窄構造とその外側にある広いリード構造との接合が量子ドット形成に重要な役割を果たしている可能性を示した。
|