平成28年度は研究計画に基づいて直交周波数分割多重方式(OFDM)の帯域外漏洩電力抑圧に関する,以下の2種類に大別される研究を実施した. ・提案法NCSPの実用化に向けた研究: 本研究代表者はこれまでに帯域外漏洩電力抑圧と実用的な誤り率を両立できる手法NCSPを提案した.本手法の実用化を考える上で,実際の環境を想定した通信路モデルでの性能評価が必須であったため,シミュレーションを行った.さらに研究結果を踏まえて,NCSPの受信側において主要な計算量を占める逆行列計算を近似することにより計算負荷を低減する手法を提案した.またNCSPをOFDMに採用したシステムをFPGA上で実装し,リソースおよび電力の消費量の観点から具体性を評価した. ・Orthogonal Precodingの実用化に向けた計算量削減法の提案: 研究過程で,上記のNCSPでは隣接帯域のサイドローブを効果的に抑圧できる一方で,任意の帯域を選択してサイドローブを抑圧しにくいことが判明した.そこで任意の周波数点で漏洩電力をゼロにする制約条件に基づいてプリコーディングを行う抑圧法Orthogonal Precodingに着目した.本手法は選択した帯域に急峻なスペクトルノッチを形成することが必要となる次世代通信技術コグニティブ無線に適していると考えられている.一方で,本手法において巨大な行列を用いてプリコーディングに関する演算を行うことによる計算量負荷が実用化の大きな障害になっていた.本研究では新規行列分解法を提案することによりこの問題を解決した.提案法は,従来法の巨大な行列に対して,効率的なアルゴリズムを利用し分解が可能であることを数学的に証明している.数値実験により,提案法が従来法の性能を全く劣化させずに,計算量を約5.4%まで削減でき,高速フーリエ変換と同程度の実用的なレベルに達したことを示した.
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