申請研究では、海馬神経細胞の正確なシナプス結合確率およびシナプス強度の測定を目的とした。そうした内在的な結合性のもと、海馬がもっとも効率化された記憶容量と処理能力を持つかを検証した。ひとつひとつのシナプスのつながりは微弱なため、その手段として、単一細胞の活動を記録・制御するパッチクランプ法を複数の神経細胞から同時におこなう必要があった。再帰性シナプス結合の評価のためには数百もの細胞ペアのデータ収集が要求されるが、これまでは設備の関係上2つの細胞からの同時記録が限界であり、データ収集効率の悪さが課題であった。前年度において、国内初となる6つの細胞から記録できる設備を立ち上げ、同時に30もの細胞ペアからパッチクランプ記録が可能となった。申請者はこの技量を向上させ、海馬からの大規模なシナプス回路解析を行った。海馬の亜領域の中には、CA2野という領域が存在する。近年社会記憶などの独自の機能が発見され注目を集めるようになったCA2領域であるが、その神経回路は未知の部分が多い。海馬の計算論を語る上で、CA3の再帰回路は重要な位置づけにあるが、そもそも海馬CA2に再帰回路が存在するのかどうかは長らく謎であった。申請者は海馬CA2野から500ペアの記録に成功し、海馬CA2野の再帰回路を新たに発見した。また、CA1野およびCA3野からの再帰回路シナプス測定も行い、CA2野の神経回路がもつ特徴を見出した。この成果はHippocampus誌に受理された。
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