本年度も引き続き「初代銀河におけるブラックホール形成とその進化」というテーマで研究を行った。本研究の目的は、宇宙に数多く存在する超巨大ブラックホールの起源を探ることである。超巨大ブラックホールはほとんどの銀河の中心に存在し、そのブラックホールの形成・進化の過程は銀河の進化にも大きな影響を及ぼしうる。このため、天文学的にも非常に意義深い研究である。本年度は、この超巨大ブラックホールの種の形成過程に焦点を当てた。具体的に超大質量星と呼ばれる、非常に重たい(10万太陽質量)星が宇宙において形成され得るかを、数値シミュレーションによって探った。この星は寿命を終えたのち、ブラックホールに崩壊し超巨大ブックホールの種になることが期待される。 昨年度までの研究では、主に超大質量星を形成し得る候補ガス雲を宇宙論的初期条件より始まる輻射流体シミュレーションを用いて探ってきた。本年度は特に、2つのガス雲に着目してそこで形成される星の質量を調べた。結果として、ガス雲の周囲の環境が星の最終質量に大きく影響することがわかった。具体的には、ガス雲の近傍に重たい銀河等が存在し強い潮汐力を受けている場合はガス雲の多くの星に分裂し、個々の星の質量は小さくなった。一方で、潮汐力の比較的弱いガス雲ではあまり分裂がおこらず非常に重たい星が形成された。10万年間の進化を追った結果、潮汐力の強い環境では数千太陽質量の星団が、潮汐力の弱い環境では数万太陽質量の星が形成されることがわかった。 本研究は周囲の環境効果も含めて超大質量星の形成過程を追った初めての計算であり、これまで考慮されてこなかった潮汐力等の環境効果が星の質量を決定するにあたって重要であることを示した。今後は、ここで形成された星が崩壊してブラックホールに進化する過程、また、そのブラックホールの成長過程に着目して研究する予定である。
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